<マハーバーラタ・57〜60>
57、パンダワの旅立ち アルジュノパティ(☆)はかつての約束を守って妻を手渡したが、家臣達はおさまらなかった。 そこでアルジュノパティは軍隊を整え、アルジュノ(☆)に挑戦し、敗れて死ぬ。 こうして手に入れたアルジュノパティの妻チトロホイ(☆)は、初夜の床でアルジュノに「二つの罪を贖え」と要求した。一つはスリウェダリ(☆)の王宮の美しい生垣を破壊した事、もう一つは罪もない夫アルジュノパティを殺したことだった。 アルジュノが素直に罪を恥じると、「ならば祭壇に火をかけ、そこに飛び入る事を許して貰いたい」と要求した。こうしてやっと手に入れたバヌワティ(☆)に生き写しの恋人をアルジュノは失った。 悲しい夫婦の死がもう一つあった。32話および55話で既に死んだという筋立てもあるダストロストロ(☆)夫婦で、インド版においては、ここでパンダワとダストロストロ夫妻は仲直りするのだが、ワヤンではユディスティロ(☆)が老夫妻に息子達の死について始終責められ、ビモ(☆)がこれに応酬して悪口雑言を返すので、夫妻は山に入って死のうとする。 これに同行したのはパンダワ母クンティ(☆)で、先頭に立ったクンティの肩に、両目を布で覆ったグンダリ(☆)が手を置き、グンダリの肩にダストロストロが手を置き、ユディスティロらが見送る中、城を出て行く。ダストロストロはクレスノ(☆)に自分の死期を訪ねた。 その時クレスノの答えた通り、三年の瞑想の後、山火事が起きて3人は死ぬのだが、ダストロストロがこれより前に死ぬ話では、クンティはこの後もまだ登場する。 平穏を取り戻した世に奇妙な出来事が起きた。水が煮え立ちにくく、動物達は声を立てず、人の生死を臭いで知らせるショウガに似たプチャンという木が大量に芽を出した。 パリクシトの政務を代行していたユディスティロはクレスノに尋ね、クレスノは「パンダワ昇天の時が来た」と述べた。 パンダワは死期を迎えるにあたって旅に出る。これに(ダストロストロ(☆)夫妻と一緒に死ななかった話の)クンティをはじめ、ドルパディ(☆)とスムボドロ(☆)といった妻達、息子達や孫達も同行する。 一行は途中で多くの魑魅魍魎を退治しながらワヒト村(☆)に到着する。 元は平和な村だったが、悪事に長けた男が村の男達を「もっと楽な仕事がある」とそそのかして連れ去った結果、彼らはある苦行者の娘をかどわかし、怒った苦行者に虎に変えさせられる。虎達は自分の村の女達を食おうと相談していた。 女達だけになった村では、男達は悪い楽しみに溺れて戻って来ないのだと思っていた。皆がヒソヒソと陰口を立てあい、いさかいが絶えず、この状況を通りかかったクンティに一人の村娘が告げた。 ビモとアルジュノが虎を迎え撃って殺すと、虎達は人間に戻り、クレスノに「村の女達を幸せにするように」と諭されて村に戻った。 58、ビモの遺言 またガドゥンムラティ村(☆)では、かつてビモとアルジュノを沼地で苦しめ、返り討ちにあって死んだガルドパティ(☆)の馬丁アンギロ(☆)がいた。彼は両足を無くしながらも馬を追い掛け、ひどい傷みに苦しんでこの村の小屋に辿り着き、食べ物だけは馬の姿をした僧侶の弟子に差し入れられているが、坐して動けぬまま日を過ごしているという。 クレスノ(☆)に問われてアンギロは死を望む。ビモは瞑想して空から小さな火を降らせ、アンギロは焼かれて魂は天に昇った。 するといきなり馬の群れが駆け込んで来て、パンダワを襲った。 パンダワが退治すると、リーダーの馬がアルジュノ(☆)を選んで攻撃して来た。アルジュノが矢を射ると、倒れた馬は、妻ウィルトモ(☆)と同じ馬の姿に乗り移ったドゥルノ(☆)だった。彼はアルジュノの呪文によって天界へ登る事を望み、アルジュノに撃たれて死ぬため「時間待ちの天界」に留まってこの日を迎えたのだった。 パンダワは昇天するための祠堂に辿り着く。クレスノの孫(ソムボ(☆)の子)、スティアキ(☆)の息子、ガトゥコチョの子サシキロノ(☆)とオントセノの子ダヌルウェンド、ナクロの息子は祭壇を作った。 ダヌルウェンド(☆)は父オントセノを早くに亡くし、母ノゴギニ(☆)も地底の国にいて会えず、唯一の肉親である祖父ビモが居なくなる寂しさに耐え切れず、ビモ(☆)の足に取りすがった。 彼は日頃から、いかにも愚鈍な男に見られていた。ビモは重代の武器を与えてやりつつ、「武器や軍隊に頼るのではなく、強気をくじき弱きを助けるのが本当の武将だ」と説いた。 すると、ダヌルウェンドは「自分には祖父の七光り以外に取り得がない。武器を貰っても、いつかは死ぬ。その時どうすべきかを教えて欲しい」と言った。 この言葉にビモは、勇猛な息子ガトゥコチョ(☆)やオントセノ(☆)が持たなかった奥深さを知って驚き、ビモがこれまでに得た訓を与えるべく、腕を取り耳に口寄せて伝授する。その眩い夢によってダヌルウェンドは失神した。 目を覚ましたダヌルウェンドに、ビモはさらに、 「今、奇跡に通じる道(夢)を見たからと言って、それが単なる知識としてしか残らないなら、所詮は影か幻に過ぎない。固執すれば一歩も先には進めない。 善悪は幻のように揺れ動く。理論の繰り返しには限界が来る。正しい判断が出来るには実践しかない。それも苦行や祈祷ではなく、また安っぽく人に言っても嘘になる。 先に進むには、目的を見つけ報酬を求めずひたすら決めた義務を遂行することだ。 人生は市場に出掛けるようなもので、いつかは帰って来る。家を間違いなく探さ(自分自身を見つけ)ず途中で惑わされれば、獣や虫とか人を邪魔する者になるだけだ」 といったような事を教訓し、祭壇に炊かれた火に身を没しようとする。 59、パンダワの昇天 するとクレスノが呼び止めて、ついに開かれる事のなかったビモ(☆)の握りこぶしの正体を知りたいと言い、顔を近付けて、放たれた光に圧倒され、思わず自分の最期について問う。 ビモは「二部族の戦いが起こり、互いに相果てて世界が砂漠になった時、獣と見間違えられて狩人の矢に射られて死ぬ」と予言し、「これまでのパンダワへの手立てに心底感謝している。しかしそれはパンダワが望んだものではなかった、全ては神のみぞ知る」と言い残し火中に身を投じた。 パンダワの肉体は滅びたが、魂はまだ残って、パリクシトの即位を待った。 以上、ややもするとユディスティロの無為無策を皮肉り、虚言より実行を説いた感じのするビモの最期の語りだが、元のマハーバーラタでは、あくまでユディスティロが主役である。 パンダワ達はヒマラヤのメール山(仏教の須弥山)に登り、ユディスティロ(☆)以外は山頂に辿り着く前に次々と死亡し、その原因をいちいちユディスティロが解説する。 死んだ順に、ドルパディ(☆)は五人の妻だったのにアルジュノばかり偏愛したから。サデウォ(☆)は知恵を、ナクロ(☆)は美貌を、アルジュノは武芸を過信(してアビマニュ(☆)の仇を一日で取ると豪語)し、ビモは粗末な言葉と力を奮った罪だった。 ユディスティロは頂上に犬と一緒に辿り着き、迎えに来たインドロ(☆)神に、弟達を見捨てられないから天界には入らないとごね、インドロ神は「みんな天国にいる」と答えると、それまでついて来た犬も連れて行くと言ってごね、それが拒絶されると、その犬が実はダルモ(☆)神で、やっと一緒に天国に至った。 ところが天界にはコラワ百王子のみいて、パンダワは地獄の責め苦にあっていると知らされ、自分も地獄に行こうとする。感じ入ったダルモ神はついに試験に及第したとして、パンダワ全員を天界に入れてやる。 (このラスト、ピーター・ブルック監督の「マハーバーラタ」では独特の描き方なのか、最後の瞑想に入るユディスティロが妻や弟の泣き叫ぶ声を聞き、「彼らは地獄にいる!」と恐れおののく。が、全ては虚夢だと知らされる……といった感じに記憶してるが、この解釈で合ってるだろうか(^_^;)) ビモに諭されたクレスノは、おとなしく自分の国に戻って運命に従う用意をする。 が、パンダワ昇天を見据えて、ビモ(☆)とアルジュノ(☆)を父の仇と付け狙っていた、ガルドパティの息子ガルドコ(☆)が攻撃をかけてくる。これを迎え撃ったのはクレスノの兄ボロデウォ(☆)だった。 60、ウィスヌ神の再来 死を迎えたクレスノ(☆)はパンダワと「時間待ちの天界」で合流した。 ここに最後の因縁がまだ起こる。アリムボ(☆)の子ウシアジ(☆)は、父の仇としてアスティノ国を敵視していたが、彼には姉としてスリタンジュンという女戦士がついていて、実はナクロの娘であったが、自分の素性を知らなかった。 スリタンジュン(☆)は死者を蘇らせる宝を持っていて、ウシアジとともにアスティノ国に押し入り、宝のお陰でアスティノ(☆)国を崩壊に向かわせた。 これにボロデウォが立ち塞がった。スリタンジュンは変身してボロデウォの武器を奪い、その武器を奪い返そうと、サデウォの子シドプクソ(☆)も変身し、武器は敵味方の間を巡った。 武器はスマル(☆)が奪った。彼には変身が通用しない。 そこでスリタンジュンとシドプクソは一騎討ちで勝負を決しようとしたが、ナロド(☆)神が降りて来て、二人は従姉弟同士だと諭す。二人はそれを聞いて和解し、スリタンジュンはアスティノ国に入った。 母のウタリ(☆)が戴冠式を命じ、ようやくパリクシト即位の時を迎えた。クレスノの孫、スティアキの息子、ガトゥコチョの子、そしてダヌルウェンド(☆)、高位高官も民衆も歓呼して祝った。これを見届け、ようやく昇天しようとするビモ、アルジュノ、クレスノの霊魂にボロデウォが呼び止め、一人残された自分の死期について問う。クレスノは「突然雲が起き、雷鳴とともに雨が降り、寒気を覚えた時」と答える。 スリタンジュンを失ったウシアジは、諦めずにまたアスティノ国に攻めて来た。ボロデウォ(☆)がまたこれに立ち塞がり、そしてついにウシアジを倒した。 その刹那、暗雲が押し寄せ雷鳴轟き、豪雨が降って、予言通りボロデウォは寒気を覚えた。立ち塞がる態のままボロデウォは昇天し、見届けたビモ、アルジュノ、クレスノもようやく昇天する。 こうしてついにアスティノ(☆)国は最後の苦難を終え(全ての因縁を断ち切り)、雨後は晴天、パリクシト(☆)の治世の下で、長く平和な世が訪れた。 多くの時が流れ、ある時、一つの美しい島ジャワに災難が訪れた。強力な守護者がおらぬため、悪者が土地を焼き尽くして崩壊させたのだ。ウィスヌ(☆)神は事態を救おうと、クレスノ(☆)以来、再びこの地上に神王ジョヨボヨを遣わした。ウィスヌに守られたこの島には超能力が宿り、誰も刃向う者は出なくなった。 (つまりジョヨボヨ王(☆)は、クレスノのようにパンダワ五王子を動かして同族のコラワを滅し、サルヨ(☆)を死に導いた、と語られる。 詩人スダが無礼を咎められて殺害された後、その続きを引き継いだ詩人パヌルは、己を卑下するほどスダの才能と功績を褒め、最後に「王の慈悲が得られれば、他には何も欲しない」と綴って終わっている) <完> |
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