<マハーバーラタ・21〜24>

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21、アルジュノ夫婦を取り巻く男女

神々の子で構成されたパンダワには、神意によるアスティノ)国継承者の資格が与えられるが、それには天啓の託宣が必要とされ、ビモ)の苦行によって得られる。数多くの者がこれを得るべく画策するが、スムボドロ)が生んだアビマニュ)がビモに触れると、ビモの体内にそれが訪れたので、アビマニュには、生まれながらにしてパンダワ嫡子の資格を与えられ、よって系譜の八代目となる。

アビマニュ(ワヤン・クリット)→
クレスノ)はアビマニュアルジュノ)同様に気に入り、自分の娘シティスンダリ)を嫁がせる事となる。また、このアビマニュの一子が、やがて大戦の後にアスティノ国王となるパリクシト)であるが、その誕生はずっと後の事となる。

美男子アルジュノと美女スムボドロには、結婚後も横恋慕する影が絶えない。
どうしてもスムボドロを忘れられないブリスロウォ)は、生涯妻を娶らぬと言い張り、ある時スムボドロに近づいて剣で脅すのだが、スムボドロは自らこの剣に飛びついて死んでしまう。

妹の死を悲しんだクレスノが、美しい棺に遺体を入れて川を流した所、そこに通りかかったのが、地層の国から旅して来たビモノゴギニ)の息子オントセノ)であった。

オントセノが祖父オントボゴ)より貰ってきた一滴の水を棺の中に落とすと、スムボドロは蘇るのだが、こうしたオントセノの超能力を、クレスノはやがて脅威に感じるようになった。

また、こんな事件も起きた。ある国のラクササ王ジョトギンバル)はスムボドロに恋をし、妹のラクササ女、ジョトギニ)王女はアルジュノに恋をした。
ジョトギンバルは国を出て旅をし、アルジュノに会いに行って、「奥方スムボドロを私に下さい」と頼む。その願いが容れられなかったら、アルジュノを殺そうとまで思っていた。

しかしアルジュノ)はあっさり承諾。しかも「ラクササ姿ではスムボドロに嫌われる」と、ジョトギンバルアルジュノそっくりの姿に変える呪文までかけてくれた。
ジョトギンバルマンドゥロ)国に向かい、スムボドロ)に会って愛し合い、スムボドロジョトギンバル)の子を妊娠した。

ジョトギンバルスムボドロをともなって自国に戻り、実は自分はアルジュノではないと正体を明かして元の姿に戻ると、スムボドロも仰天して、実は自分もジョトギニだと言って元の姿に戻った。

つまり兄と妹で契った結果、妹ジョトギニはやがて兄の子を生んだ。これがコロスレンギ)である。
騙されて兄妹で契り合い、子まで成した二人は絶望し、兄王ジョトギンバルアルジュノに復讐しに行くが返り討ちに合って死亡。すると妹ジョトギニも兄の復讐に出掛けるが、遭えない最期を遂げた。

やがて、この真相を知ったコロスレンギは、父母の仇とアルジュノを付け狙うようになる。



22、サイコロ賭博事件

アマルト)国は今や盛大な王国として繁栄し、宮殿は壮麗で、ユディスティロ)は人民によく慕われる王となった。

ドゥルユドノ)はこれを嫉妬したのみならず、即位式に招かれ訪れた宮殿の床があまりに清く磨かれていたために、水を張った浴場と勘違いして裸になって飛び込み足を挫いたり、逆に浴場の水があまりにも透明であったため、知らずに落ちて濡れ鼠となったり、いよいよ憎悪の思いを強くした。

それでスンクニ)を使者に遣わせ、言葉巧みに、軍勢を引き連れさせずパンダワ兄弟を招き寄せる策に出た。これにドルパディ)が、ドゥルユドノの妃となったバヌワティ)との語らいを望んで同行したのが、さらに悲劇を招いた。

パンダワ接待の饗宴はつつがなく催し、目の見えないダストロストロ)のみを残し、他のアスティノ国長老達が引き上げた所を見計らって、内輪のお遊びとばかりに、サイコロ賭博を持ち出す。

賭博は、ドゥルユドノユディスティロの二人の間で行われた。サイコロを振るのはスンクニだが、サイコロには仕掛けがあり、最初の内はユディスティロに勝ちをおさめさせて油断させる。

後半に折り返した頃から、ユディスティロが数字を当てると、スンクニは籠の中のサイコロを無効にし、一方ドゥルユドノには、サイコロの数を予め指の数で密かに教える、つまりは詐欺であった。

ユディスティロ)は持ち合わせの金を無くし、衣服を賭け、アマルト国の宮殿と財を賭け、領土と軍隊、最後にはパンダワ兄弟の命と妻ドルパディまで失ってしまう。

盲目ゆえに事の次第がわからなかったダストロストロ王は、ここに来て異常な事態に気付き、息子ドゥルユドノ)を切々と諭して、パンダワの命だけは奪う事を取りやめさせる。

渋々と父王の忠告に服したドゥルユドノだが、新たに、パンダワは12年を森で過ごし、最後の一年を誰にも知られずに過ごし、最後の一年に身分が知れたら、再び13年のやり直しを永遠に繰り返す、という酷い刑を与えた。

カルノ)は冷酷なのか同情なのか、ドルパディに、ユディスティロのような妻を捨てる男など諦め、早く他の男と結婚しろと言った。



23、ドルパディの誓い

一方ドゥルソソノ)はこの事態を大いに喜び、粗暴な態度を露にした。囚われたドルパディの髷を解き、引きずり回して衣服を脱がせようとしたのだ。又この様子をドゥルユドノが止めず、むしろ楽しげに膝を打って眺めたので、ビモ)は、「後の戦争の時に、お前の膝を叩き割ってやる」と呪詛の声をあげた。

この時、ドルパディ)の悲痛な思いを遠くから読み取ったクレスノは、超能力を使ってドルパディの衣服の下から次々と衣服を出して救ったものの、彼女の身柄とパンダワの命がコラワの手に握られた事は撤回の余地はなかった。
パンダワ兄弟は、ドゥルソソノに身包み剥がされ森に消えた。

アスティノ王宮には、ようやく異常事態を知ったビスモ)が駆けつけ、残されたドルパディを、賭博の戦利品のお裾分けに貰い受けたい、と申し出た。ドゥルユドノは、ビスモが彼女を下女か愛人にすると思い込んで許可する。
ビスモドルパディを連れてパンダワを追い、追い付くと彼女を引き渡した。

誇り高いドルパディビモを証人に立て、ビスモに「ドゥルソソノから受けた屈辱を晴らすため、彼の手でほどかれた髪を彼の血によって注ぐ日まで結わない」と誓いを立てた。以後彼女は、ザンバラ髪のまま登場しつづける。

また証人に指名されたビモは「ドルパディ)が受けた、衣装を引き裂かれる屈辱を晴らすため、戦争の時にドゥルソソノの腹を引き裂く」と、自らの誓いを追加する。

こうしてアマルト国の首都インドロプラスト)にはスンクニが入城し、以前より妻に望んだ、パンダワの母クンティ)を発見するや不埒にも言い寄り、侮蔑的な口説き文句を言ったため、クンティの呪詛も加わった。この後クンティ)はドルパディの父ドルポド)を頼って、パンチョロ)国に身を置く事となる。

ようやく駆けつけたクレスノは、賭博にかけられずに済んだスムボドロ)やアビマニュ)を引き受け、ユディスティロにある森に行くよう薦めた。
アルジュノは来るべき戦に備えて、一人ある山に登り、飲まず食わずの苦行に励んだ。

同時期、天界は、妖精スプロボ)を妻に望んだ魔王を神々が拒絶したため、この魔王に脅かされ、天界の妖精達を司るインドロ)神は、これを退治できる者を探し、修行していた我が子アルジュノ)に目を付け、テストのためにウィルトモ)をはじめ7人の妖精を送り込んだ。

妖精達が仕掛ける誘惑を断ち切ったアルジュノは、見込まれて神々に推薦され、宇宙支配神グル)はアルジュノに、超能力の矢パソパティ)を授ける。



24、アルジュノと天界の妖精たち

アルジュノスプロボを囮として魔王に近付け、魔王は惚れた弱みでスプロボに自分の急所を明かしてしまったため、アルジュノは見事に魔王を退治する。天界の神々よりスプロボをはじめ、天界に住む大勢の妖精たちを妻に与えられ、スプロボ)との間に男子も得た。

この後、農耕の女神スリ)も姿を消し、スリを探し当てた国は、稲の豊作と安穏が得られると信じたコラワは女神の探索に当たるが、見付けたのは又もパンダワであった。

アルジュノは又、火神ブロモインドのブラフマー(梵天)と火神アグニが混在した神)の娘ドゥルソノロ)とも結婚し男子ウィサングニ)を得るが、ドゥルソノロに横恋慕したデウォスラニ)と、その母でラクササ姿の女神ドゥルゴ)によって二人は離縁させられる。

ドゥルゴは元は美しく力のある女神だったが、グル神に負けてその妃となり、グルのよこしまな欲情を軽蔑して、怒ったグルに醜い姿に変えさせられた。その髪の毛には、人の姿を隠す魔力が潜む。
デウォスラニグル)とドゥルゴの息子とも言われ、グルが欲情して垂らした精液から生まれたラクササとドゥルゴとの間に出来た息子とも言われる。名には「カトリック教徒の神」の意味がある。

グル神は軽率な性格で、このように離縁同様にしたドゥルゴ)でありながら、ドゥルゴに迫られると火神ブロモに、その娘夫婦の離縁の履行を命じてしまう。

こうして引き裂かれた父母の子ウィサングニは、赤ん坊のころ火山に投げ込まれたが、聖なる光によってアルジュノ)以上の超能力を得て、いきなり青年となり、ドゥルゴ親子とグル神を懲らしめる。
その後もウィサングニは父アルジュノの危機を知るたびに登場し、悪漢を懲らしめる。

また、ある苦行僧の娘との間にはイラワン)という息子を儲けるが、アルジュノにはこうした子は無数にいて、何らかアルジュノに勝る才能が無いと子と認知されない。
イラワンはやがて超能力の女部下を持ち、これがアルジュノと勝負してアルジュノを死なせたため、イラワンの母は蘇生の術でアルジュノ)を生き返させ、イラワンアルジュノの息子として、来るべき戦に備える身となった。

イラワン)には、ティティサリ)というクレスノ)の娘が妻となる。元はドゥルユドノの子レスモノモンドロクモロ)が妻に望んでいた娘で、この先もレスモノモンドロクモロは父ドゥルユドノ)同様、望んだ妃を片っ端から人に取られてしまう。

     
  <コメント>

前回に続き、モテモテ男のアルジュノとモテモテ女のスムボドロ、という美男美女夫婦のお話から今回もスタート(笑)。
特にアルジュノには、この手の話が星の数ほどあるようです(^_^;)。ワヤンではそれがシリアスとして描かれるばかりでなく、「お約束の」というノリで、半ばギャグ・ネタっぽく出て来る場面もあるようです。

それらには一過性のネタが多い感じがするのですが、今回登場した「ジョトギンバル」一族達の復讐譚だけは、わりとしつこく何度も出て来ます(^_^;)。

ここで思い出すのが、アルジュノには曾祖父にあたるポロソロの淡白さです。妻サティヨワティをアッサリとスンタヌに譲って、自身は山にこもってしまいましたが、アルジュノの代になると、こういう所がすごく違って来るんですね(笑)。

しかも兄と妹の間に子が出来るというのは、普通に考えてもゾッとするような事ですが、ラクササ社会においても恥ずべき汚点であるようです。やり場の無い怒りに燃えるのも当然でしょうね〜。

次が、マハーバーラタの中でも最大のヤマ場の一つに数えられる「サイコロ賭博事件」。
私は出来るだけ原作に沿って、この話を(いかに無茶苦茶であろうと:笑)パンダワ寄りに描いています。

が、どうもこの一件だけは、ユディスティロのウカツさがどうにも理解できません(^_^;)。。
実はこの賭博の後、ドルパディが衆目に醜態を晒されるシーンで、次男ビモが怒り狂って止めに入ろうとすると、ユディスティロは「それがそなたの姉の運命なのだ」と逆にビモを制止するのです(^_^;)。。

賭けに負けた自分が悪いのだから、その妻たるドルパディがどう恥を掻こうと、黙って甘んじるしかない、という正論なんでしょうが、そういう事を言える口があったら、最初から妻を景品に賭けるなよと(苦笑)。

と言っても、これは古代インド社会を規範にした話ですから、こういう事を言い出すのはナンセンスだとは判ってます。
インドにおけるユディスティロは、恐らく中国における聖王のような役回りなのでしょう。日本ではあまり人気のあるタイプじゃないですよね(笑)。
ここで冷たく「妻を賭けるような男のことは諦めろ」というカルノのセリフが、今の感覚で言えば「慰め」にすら聞こえて来ます(^^ゞ。

カルノはインド原産においては悪役ですが、インドネシアでは英雄として扱われます。大きな違いと言えるかもしれません。
もしかして、こういう違いに大陸(インドや中国)と島国(日本やインドネシア)の違いがあるのだとしたら、興味深い所です。

私情はさて置き(笑)、何しろこの成り行きをもって、ユディスティロ以外のパンダワ兄弟自身に初めて「戦意」が生まれます。
これまでは、やたらと周囲の怨恨に引きずられるだけだったパンダワ兄弟でしたが、この先何かと言うと、国土を奪われた事とドルパディの受けた屈辱が、彼らを戦争へと導くのです。

また、1度焼討ちされて国を追い出されたパンダワ兄弟は、ウィロト国王マツウォパティの元で功績を立て、開拓までしてアマルト国を作ったのですが、この国まで奪われ、13年もの間、森の中で暮らさなければならなくなります。

ドゥルユドノは、パンダワ達が自力でも王国を作れる者達だと知って、二度と這い上がれぬよう、手の込んだ刑を下したわけですね。
これらもパンダワ達の復讐心に火をつけたに違いありません。

又ふがいない夫(笑)に代わって、気丈なドルパディの立てた誓いの言葉通り、これを機にドルパディは髪を結わずに出て来ます。これはワヤンに登場する女性達の中では変わったスタイルです。

←ピッタリのワヤンがこれまた無くて恐縮ですが(^^ゞ、似たような物なら撮影しました。これまで男性のワヤンクリットは出しましたが、女性のは無かったので、「だいたいこんな感じ」という事で写真を出しておきます。

男性達と同じく女性達も通常、髪にたくさんの飾り(王冠や簪など)をつけ、首より高い位置に結い上げていますが、この女性ワヤンは髪が下に下がっていて、呪いの誓いを立てた後のドルパディを連想させます。



<因縁(および誓い)メモ>

ビスモに対するオムボの因縁−02話
パンドゥ一族(つまりパンダワ)へのプリンゴダニ国ラクササ一族の因縁−03話
サルヨに対するパガスパティの因縁−05話
パンダワ兄弟に対するグンダリの宣戦布告−06話
スンクニの急所−06話
ボゴデント、クルティペヨ、ガルドパティ、ウレソヨら、飛ばされたコラワ兄弟の集結−09話
ドルポドとドゥルノの確執−10話
ドゥルノに対するパルグナティの因縁−10話
アルジュノパティに対するクレスノの命令−10話
イジュロポ親子の「神に捧げる人身御供」になる約束−13話
サゴドロの「神に捧げる人身御供」になる約束−13話
ガトゥコチョの臍に吸い込まれた鞘とカルノの剣の合致−16話
アルジュノに対するジョトギンバル(ラクササ)一族の復讐心−21話
ドゥルユドノの膝を叩き割る、というビモの呪詛−23話
ドゥルソソノの血で洗うまで髪を結わない、というドルパディの誓い−23話
ドゥルソソノの腹を引き裂く、というビモの誓い−23話
 
     



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