<マハーバーラタ・05〜08>

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05、パンダワ伯父サルヨ

サルヨ)の妻となったスティヨワティ)は、父バガスパティ)に、夫サルヨの夢占いを依頼する。
その内容は「美しく香りもよい花が咲いていて、木には毒のある鋭いトゲが生え、花を摘めないので、木を切り倒そうとする」というものであった。

バガスパティサルヨを呼び出し「美人の妻は欲しいが醜い父は要らないのだろう」と指摘した。ラクササには食人鬼にまでなりさがった者が多いため、サルヨが「大きな宴のたびに父として人目に晒すのは屈辱だ」と認めると、バガスパティ)は「自分を殺せ」と言う。

サルヨは様々な武器で攻撃したが、超能力のバガスパティは傷一つ負わず、これを約束違反としてサルヨ)が罵ると、バガスパティは改めてサルヨの礼儀知らずを指摘した。

自分を恥じたサルヨは心から詫び、バガスパティは、サルヨが大国の王として多くの民を支配する未来を予言し、王や武将の道を説いた。
サルヨは感動し、前言撤回したが、バガスパティは、「武将は己の言葉に責任を取らねばならぬ」と諭し、不思議な武器を渡して、自らの急所が左肘にある事を告げる。動転したサルヨ)は、言われるままに武器を手に取り、バガスパティ)の左肘を撃った。

死にゆくバガスパティは、自身の命を結納にスティヨワティへの愛を約束させ、最期に呪文を授ける。それは敵に襲われた時に唱えると、小さな怪物が飛び出し、殺されるたびに怪物が倍数……つまりやがて無限大に増殖していく呪文であったが、悪意のない公正な相手、特に正法の護持者を敵とした場合は効力を失い、呪文を唱えた者も破滅に至る、という物だった。

バガスパティの魂は天界へは上らず、サルヨが後に来るべき戦争の時、「正法の白い血を持つ王」に討たれる日まで、"時間待ちの天界"で、真に決着がつくまで留まる事となる。

スティヨワティ)をサルヨが連れ去った後、バガスパティが修行していた山中には人も住まず、住所も深い森林の奥に姿を消し、スティヨワティには実家や故郷と呼べる場所が無くなった。サルヨスティヨワティに唯一無比の愛を注ぐようになった。

夫婦の間には、長男ブリスロウォ)、次男ルクモロト)、以下はいずれも美女の三姉妹、長女エロワティ)、次女スルティカンティ)、三女バヌワティ)が誕生する。

ブリスロウォは祖父バガスパティから一人ラクササの容貌を受け継ぎ、それを恥じて父サルヨと同席する公式の場に顔を出さず、竹簾の影に隠れて過ごした。次男ルクモロトは美形ではあったが近視だった。



06、コラワ百王子の誕生

クンティ)、マドリム)、グンダリ)を手に入れたパンドゥ)は、アスティノ)国に帰るや、兄ダストロストロ)と弟ヨモウィドロ)に、婿取りの儀の結果を報告する。

目の見えないダストロストロは、女が一人ならパンドゥに譲ろうと申し出るが、三人と聞いて、兄弟で山分けしようと提案する。
しかし若いヨモウィドロ)が、まだ結婚の意志が無いと辞退したため、ダストロストロは、パンドゥ)に二人、自分は一人で良いと持ち掛け、そのかわり、その一人は自分で選びたいと願った。

こうして、三人の女達がダストロストロに手を触れさせた結果、クンティは三人、マドリムは二人、グンダリは百人の子を生む、とダストロストロ)に予言される。

クンティ)とマドリムは、生まれる子の少ない事を嘆くよりも、パンドゥの妻となれる事を喜んだ。一方のグンダリは、百人の子を生む幸福よりも、やはりパンドゥでなくダストロストロの妻となる事を嫌がった。

この時、後方に手探りし始めるグンダリを、クンティマドリム)が思わず押し戻したため、グンダリ)はダストロストロの膝に崩れ落ち、ダストロストロの強烈な力に捕えられて妻にされる。

グンダリは自分を押し戻したクンティマドリムを激しく憎み、「やがて訪れる戦争の日に、自分の生む百人の子は、クンティマドリムの生む五人の子の敵となるだろう」と呪いをこめた。

この声を聞きつけたアビヨソ)がいきなり姿を現し、「パンドゥグンダリを苦しめた事実は拭えない。この呪いは実行され、やがて訪れる戦は、パンドゥダストロストロの一族の間で起こるだろう」と予言し、時が到ったとして王位をパンドゥ)に授けた。

ダストロストロ)と妃グンダリの間には、ダストロストロの予言通り百王子が生まれた(テレビ映画では、一度、大きな原型を産み、それが百個に分かれて百人に増えたような描写をしていた)。

こうなると、当初クンティの婿選びでパンドゥに敗れた者達は、明暗が分かれた。
サルヨ)には愛妻スティヨワティがいた上、こうしてパンドゥもめでたく妹婿となったが、同じ敗れた立場のグンドロ)・スンクニ)にとっては、嫁も得られず、妹を取られたあげく、忌々しい縁談を持ち込まれただけとなった。

中でもスンクニは狡猾な人柄で、何とかマイナス分を取り替えそうと、ダストロストロ王の盲目をいい事に、その一家に巧みに取り入り、徐々に大きな地位を占めていく。
ある時、目の見えないダストロストロが不死身の香油の瓶を倒すと、スンクニ)はこれを浴びて不死身の体になった。ただその油は肛門にだけは染み込まず、それがスンクニの急所となった。



07、クレスノの兄妹

クンティ)の兄バスデウォ)も妻を得て、父王よりマンドゥロ)国を継承した。
ところがバスデウォ王が狩りに出かけている最中、ラクササ王がバスデウォに変装して妻に言い寄り、同衾して妊娠させてしまう。
やむなく妻は森に捨てられ、男子コンソ)を産んだが、ラクササの子なので鼻は異形で牙も生えていた。

コンソはラクササ王の信頼を得た手下のラクササに養育されたものの、バスデウォ王に終生恨みを持ち、またマンドゥロ国の地位を狙ったため、その後、バスデウォ)王は他の妃を娶ったが、その子が生まれるたびに、6人までがコンソによって殺された。

7人目の子がボロデウォ)で、蛇神バスキの化身とされる。ボロデウォは、周囲が替え玉の赤子を用意して避難させられたため、コンソの魔の手から逃れられた。

さらにバスデウォ王は、別の女性に次の男子クレスノ)を生ませた。
この女性はクレスノを生むと同時にこの世を去り、クレスノは兄ボロデウォの母の乳で育てられたため、ボロデウォ)と双子のように似ていたと言われる。

クレスノ(ワヤン・クリット)→

(インドでは、コンソ)は元々ある国の悪い王で、コンソを油断させて近付き懲らしめるために、ウィスヌ)神が遭えて、コンソの妹(クレスノの母)が嫁いだバスデウォの子クレスノ)に化身して生まれて来る。
が、計略はコンソにバレ、夫婦は閉じ込められ、牢内で生まれる子は次々と殺され、ボロデウォクレスノだけが逃げて生き延び……という具合)

ボロデウォクレスノには、さらに妹のスムボドロ)が誕生する。
三人の子供達は小さな村で、家畜飼育人の夫婦と、その子ウドウォ)に守られて育った。
ウドウォとその妹ララサティ)は、実はバスデウォの隠し子とも言われ、ウドウォは後にクレスノの宰相となって戦争を統率し、ララサティはパンダワ三男アルジュノ)の妻妾となる。

クレスノは宇宙護持の神ウィスヌの化身である。
ウィスヌ神の持つチョクロ)は車輪型の武器で、太陽すら覆い隠す事ができると言われ、核の存在をも想像させる決定的な威力を持つ。また、死者を蘇生させるウィジョヨクスモの花()は、これを得るためにウィスヌ)が苦行僧の娘と婚姻したり、この花と一体であるべき花のガクを黒い牡牛の咽喉から抜き取る逸話もある。

ウィスヌはインドでは、破壊神シヴァや創造神ブラフマーとともに三位一体神とされるが、インドネシア・ワヤンにおいてはグル)(=シヴァ)神の息子とされ、天界を守るため、グルの命を受ける態を保ちながらも、実際には個人としても決定的な力の持主でもある。

ちなみにグルは宇宙支配神で天界でも最高の地位にあり、その代行としてナロド神()がしばしば登場する。

ボロデウォは正義感だが多少短気な所があるため、こういう弟をもった兄の心中としては複雑で、常に弟クレスノ)の思慮(あるいは策謀)にしてやられる局面が多く、内心腹立たしく思うことも少なくない。

しかし成長を果たしたボロデウォは特にゴド(棍棒)の使い手として武勇に優れた。
コンソ)がマンドゥロ国を乗っ取る策謀を練り、クレスノ三兄妹をおびき寄せて殺そうと、諸国の武芸者を集めて闘技大会を催した時、ボロデウォ)は逆に見事宿敵コンソを討ち果たし、逃げ隠れに追われる日々を終わらせる。



08、パンダワ5王子の誕生

弓の名手パンドゥは、ある日狩りに出掛けて、森の奥の池の畔で交尾している雌雄の鹿を発見した。パンドゥが二頭を矢で射殺すと、怒った鹿の魂が「夫婦で睦みあうと命を落とす」と呪いの予言を残した。

これは宇宙支配神グルが、インドロ神に由来する大地の安全と幸福へのたゆまぬ努力の知恵をパンドゥ)から消滅させるため、罪に陥れて天界の火山に投じるべく、聖僧が鹿に化けた所を殺させようと仕組んだ、という話もある。

まだ子を得ていないパンドゥが妻のクンティに相談すると、クンティは神と交わり、子を授かれるドルウォソの例の呪文()について打ち明ける。パンドゥは喜び、その方法で子を得られるように頼んだので、クンティは呪文を唱えた。

はじめに現れたのは、正法の神ダルモ)であった。ゆえにクンティが生んだ長男ユディスティロ)は、イスラム聖典コーランの一句「カリモソド」()を護符として受け継ぎ、公正無私にして清廉潔白、決して嘘をつかず、怒ることも争う事もなく、白い血を持つ武将として成長する。

長男ユディスティロ(ワヤン・クリット風の灯り傘)→

以下、パンドゥが子の増える事を望み、次々と誕生した王子たちである。

二人目の神は風神バユ)で、現れるや強風が吹き、歩む速度は速く、市松模様の衣装を身につけ、手からは一本の長い爪を出し、額にはコブがある。クンティ)はバユに次男ビモ)を授かった。

が、ビモは堅い膜に覆われて誕生したため、誰一人割る事ができずに森にあった。
やがて自身でその殻を破って(象が割ったともいう)出て来ると、握りこぶしをしたままで、その拳から一本の爪が生え、強力な武器となっていた。
その殻のかけらをナロド神が拾い、空を飛んで地上に投げると、苦行者スムパニ)の足元に落ちて来た。

スムパニは妻との間に子が出来ず、子宝を授かるために山中で苦行していたから、その殻に祈りを捧げた所、殻が姿を変えて赤ん坊となった。この赤ん坊をジョヨジョトロ)と言う。
ジョヨジョトロは容姿がビモそっくりだったため、成長するに従いビモを慕い、いつかビモ)に仕えたいと切望するようになる。

しかし今はまだ当のビモは森の中におり、パンダワの兄弟達とも会えぬ8年もの歳月を、そのまま森の中を転々とする運命にある。

三人目の神は天界守護神インドロ)。宇宙支配神グル)(=シヴァ)の支配下にあって、天界の妖精たちを監視している神で、クンティは三男アルジュノ)を授かる。

←三男アルジュノ(ワヤン・クリット)

アルジュノは、物語きっての美男子である一方、母クンティが川に流した異父兄カルノ)に瓜二つとも言われる。先祖伝来の矢(01話)を受け継ぐべき身であり、また父インドロ神の守護する、妖精たちのいる天界を持つべき者ともされ、先に登場したクレスノとともに、ウィスヌ神の化身として、物語のほとんど主役と言っていい。

クンティに呪文を唱える機会は三度までだったが、パンドゥの頼みで、一度だけという条件で、クンティが第二夫人のマドリムに呪文を教えた。マドリムの元に現れたのは双神アスウィン)で、誕生したのは双子の兄弟ナクロ)とサデウォ)であった。

以上、5人を総称して「パンダワ」といい、系譜の七代目にあたる。

     
  <コメント>

舅パガスパティと婿サルヨのやりとりを見てると、争い合いながらも、最後には舅が婿に「大国の王となる将来」を祝福して別れるあたり、古事記のスサノオと大国主の舅婿関係にちょっと似てますよね(^^ゞ。

ただ、舅のスサノオの荒っぽいテストを、婿の大国主が必死にやりぬくのに比べ、マハーバーラタでは容貌は怪異でも舅パガスパティは善良なラクササ、対する婿のサルヨは気性が激しく、性格は逆転してます。
あげく、パガスパティを殺してしまうサルヨ。この非情な舅殺しの因果が、やがてサルヨに巡って来るわけです。

また、日本では舅のスサノオの方に三姉妹(宗像社の三女神)の娘がいますが、マハーバーラタでは婿のサルヨの方に美人三姉妹の娘が生まれ、何かと物語に関わってきます。

クンティ、マドリム、グンダリという三人の女達の確執も、この後に大きな波紋を残します。
グンダリの呪いは、そもそも婿選びの競技の勝利者に嫁ぐべきを、連れて行かれた先でお婿さんを替えられてしまう事への不満という、前回ビスモに迫って殺されたオムボの呪いとも似てますが、百人の子を得られると知っても、それを良しとは思わない、というオマケがつきます。

また、ボロデウォ・クレスノ兄弟が生まれるまでの話は、最初に出て来たビスモの母ガンガ女神が生まれて来た子を次々と殺して、8人目のビスモになってようやく……という話に大変似てますよね(^^ゞ。

古事記のイザナギが子を増やすと言い、黄泉の国の妻イザナミが毎日その子を殺してやると言う、あの話を何となく思い出します(^_^;)。
男達は多産を喜び、女達はあまり喜ばない。古来から男と女はこのテーマで揉めてたんですなぁ(笑)。

ただしグンダリの呪いは、やがてズバリと具体的に現実のものになります。
グンダリのような悪女は、日本の神話にはあまり見掛けないですが、これがキッカケとなって大きな戦争にまで発展する筋立てを思えば、そういう不幸の種を作ってはならないという、男性への戒めになる、という見方も出来ますよね(^^ゞ。

それから、クンティやマドリムは夫の頼みではありますが、それぞれ別の男(と言っても相手は神様達ですが)との間に生まれた王子を得て、これが後継者たりうるわけです。
これは前の回でも、王妃サティヨワティが前の夫との間になした子(アビヨソ)を王位につかせますが、このように王様の血筋が絶えた場合、お妃様の血筋(ってか他の男の胤)が優先されるんですね(^_^;)。

こんな風に、マハーバーラタに登場する女達は、意外と勝気だったり、主張や立場も強いです。

さて、ようやく物語の主人公、クレスノとパンダワ兄弟が誕生しました(^^)。
クレスノの父とパンダワの三兄弟の母が兄妹ですから、彼らは従兄弟同志になるわけですね。

今回は大急ぎで、クレスノ、ユディスティロ、アルジュノのワヤン・クリット(影絵芝居用の人形)を実家で撮影して来て載せました(^_^;)。
ホントは、あとビモがあるといいんだけど、ビモの人形はウチに無かったので、わりと詳めに文字で描写しておきました。

この後も、まだ重要人物の登場はちょくちょくありますが、だいたいの主要人物は今回で揃ったと思います。
 
     



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