05、パンダワ伯父サルヨ サルヨ(☆)の妻となったスティヨワティ(☆)は、父バガスパティ(☆)に、夫サルヨの夢占いを依頼する。 その内容は「美しく香りもよい花が咲いていて、木には毒のある鋭いトゲが生え、花を摘めないので、木を切り倒そうとする」というものであった。 バガスパティはサルヨを呼び出し「美人の妻は欲しいが醜い父は要らないのだろう」と指摘した。ラクササには食人鬼にまでなりさがった者が多いため、サルヨが「大きな宴のたびに父として人目に晒すのは屈辱だ」と認めると、バガスパティ(☆)は「自分を殺せ」と言う。 サルヨは様々な武器で攻撃したが、超能力のバガスパティは傷一つ負わず、これを約束違反としてサルヨ(☆)が罵ると、バガスパティは改めてサルヨの礼儀知らずを指摘した。 自分を恥じたサルヨは心から詫び、バガスパティは、サルヨが大国の王として多くの民を支配する未来を予言し、王や武将の道を説いた。 サルヨは感動し、前言撤回したが、バガスパティは、「武将は己の言葉に責任を取らねばならぬ」と諭し、不思議な武器を渡して、自らの急所が左肘にある事を告げる。動転したサルヨ(☆)は、言われるままに武器を手に取り、バガスパティ(☆)の左肘を撃った。 死にゆくバガスパティは、自身の命を結納にスティヨワティへの愛を約束させ、最期に呪文を授ける。それは敵に襲われた時に唱えると、小さな怪物が飛び出し、殺されるたびに怪物が倍数……つまりやがて無限大に増殖していく呪文であったが、悪意のない公正な相手、特に正法の護持者を敵とした場合は効力を失い、呪文を唱えた者も破滅に至る、という物だった。 バガスパティの魂は天界へは上らず、サルヨが後に来るべき戦争の時、「正法の白い血を持つ王」に討たれる日まで、"時間待ちの天界"で、真に決着がつくまで留まる事となる。 スティヨワティ(☆)をサルヨが連れ去った後、バガスパティが修行していた山中には人も住まず、住所も深い森林の奥に姿を消し、スティヨワティには実家や故郷と呼べる場所が無くなった。サルヨはスティヨワティに唯一無比の愛を注ぐようになった。 夫婦の間には、長男ブリスロウォ(☆)、次男ルクモロト(☆)、以下はいずれも美女の三姉妹、長女エロワティ(☆)、次女スルティカンティ(☆)、三女バヌワティ(☆)が誕生する。 ブリスロウォは祖父バガスパティから一人ラクササの容貌を受け継ぎ、それを恥じて父サルヨと同席する公式の場に顔を出さず、竹簾の影に隠れて過ごした。次男ルクモロトは美形ではあったが近視だった。 06、コラワ百王子の誕生 クンティ(☆)、マドリム(☆)、グンダリ(☆)を手に入れたパンドゥ(☆)は、アスティノ(☆)国に帰るや、兄ダストロストロ(☆)と弟ヨモウィドロ(☆)に、婿取りの儀の結果を報告する。 目の見えないダストロストロは、女が一人ならパンドゥに譲ろうと申し出るが、三人と聞いて、兄弟で山分けしようと提案する。 しかし若いヨモウィドロ(☆)が、まだ結婚の意志が無いと辞退したため、ダストロストロは、パンドゥ(☆)に二人、自分は一人で良いと持ち掛け、そのかわり、その一人は自分で選びたいと願った。 こうして、三人の女達がダストロストロに手を触れさせた結果、クンティは三人、マドリムは二人、グンダリは百人の子を生む、とダストロストロ(☆)に予言される。 クンティ(☆)とマドリムは、生まれる子の少ない事を嘆くよりも、パンドゥの妻となれる事を喜んだ。一方のグンダリは、百人の子を生む幸福よりも、やはりパンドゥでなくダストロストロの妻となる事を嫌がった。 この時、後方に手探りし始めるグンダリを、クンティとマドリム(☆)が思わず押し戻したため、グンダリ(☆)はダストロストロの膝に崩れ落ち、ダストロストロの強烈な力に捕えられて妻にされる。 グンダリは自分を押し戻したクンティとマドリムを激しく憎み、「やがて訪れる戦争の日に、自分の生む百人の子は、クンティとマドリムの生む五人の子の敵となるだろう」と呪いをこめた。 この声を聞きつけたアビヨソ(☆)がいきなり姿を現し、「パンドゥがグンダリを苦しめた事実は拭えない。この呪いは実行され、やがて訪れる戦は、パンドゥとダストロストロの一族の間で起こるだろう」と予言し、時が到ったとして王位をパンドゥ(☆)に授けた。 ダストロストロ(☆)と妃グンダリの間には、ダストロストロの予言通り百王子が生まれた(テレビ映画では、一度、大きな原型を産み、それが百個に分かれて百人に増えたような描写をしていた)。 こうなると、当初クンティの婿選びでパンドゥに敗れた者達は、明暗が分かれた。 サルヨ(☆)には愛妻スティヨワティがいた上、こうしてパンドゥもめでたく妹婿となったが、同じ敗れた立場のグンドロ(☆)・スンクニ(☆)にとっては、嫁も得られず、妹を取られたあげく、忌々しい縁談を持ち込まれただけとなった。 中でもスンクニは狡猾な人柄で、何とかマイナス分を取り替えそうと、ダストロストロ王の盲目をいい事に、その一家に巧みに取り入り、徐々に大きな地位を占めていく。 ある時、目の見えないダストロストロが不死身の香油の瓶を倒すと、スンクニ(☆)はこれを浴びて不死身の体になった。ただその油は肛門にだけは染み込まず、それがスンクニの急所となった。 07、クレスノの兄妹 クンティ(☆)の兄バスデウォ(☆)も妻を得て、父王よりマンドゥロ(☆)国を継承した。 ところがバスデウォ王が狩りに出かけている最中、ラクササ王がバスデウォに変装して妻に言い寄り、同衾して妊娠させてしまう。 やむなく妻は森に捨てられ、男子コンソ(☆)を産んだが、ラクササの子なので鼻は異形で牙も生えていた。 コンソはラクササ王の信頼を得た手下のラクササに養育されたものの、バスデウォ王に終生恨みを持ち、またマンドゥロ国の地位を狙ったため、その後、バスデウォ(☆)王は他の妃を娶ったが、その子が生まれるたびに、6人までがコンソによって殺された。 7人目の子がボロデウォ(☆)で、蛇神バスキの化身とされる。ボロデウォは、周囲が替え玉の赤子を用意して避難させられたため、コンソの魔の手から逃れられた。 さらにバスデウォ王は、別の女性に次の男子クレスノ(☆)を生ませた。
ボロデウォとクレスノには、さらに妹のスムボドロ(☆)が誕生する。 三人の子供達は小さな村で、家畜飼育人の夫婦と、その子ウドウォ(☆)に守られて育った。 ウドウォとその妹ララサティ(☆)は、実はバスデウォの隠し子とも言われ、ウドウォは後にクレスノの宰相となって戦争を統率し、ララサティはパンダワ三男アルジュノ(☆)の妻妾となる。 クレスノは宇宙護持の神ウィスヌの化身である。 ウィスヌ神の持つチョクロ(☆)は車輪型の武器で、太陽すら覆い隠す事ができると言われ、核の存在をも想像させる決定的な威力を持つ。また、死者を蘇生させるウィジョヨクスモの花(☆)は、これを得るためにウィスヌ(☆)が苦行僧の娘と婚姻したり、この花と一体であるべき花のガクを黒い牡牛の咽喉から抜き取る逸話もある。 ウィスヌはインドでは、破壊神シヴァや創造神ブラフマーとともに三位一体神とされるが、インドネシア・ワヤンにおいてはグル(☆)(=シヴァ)神の息子とされ、天界を守るため、グルの命を受ける態を保ちながらも、実際には個人としても決定的な力の持主でもある。 ちなみにグルは宇宙支配神で天界でも最高の地位にあり、その代行としてナロド神(☆)がしばしば登場する。 ボロデウォは正義感だが多少短気な所があるため、こういう弟をもった兄の心中としては複雑で、常に弟クレスノ(☆)の思慮(あるいは策謀)にしてやられる局面が多く、内心腹立たしく思うことも少なくない。 しかし成長を果たしたボロデウォは特にゴド(棍棒)の使い手として武勇に優れた。 コンソ(☆)がマンドゥロ国を乗っ取る策謀を練り、クレスノ三兄妹をおびき寄せて殺そうと、諸国の武芸者を集めて闘技大会を催した時、ボロデウォ(☆)は逆に見事宿敵コンソを討ち果たし、逃げ隠れに追われる日々を終わらせる。 08、パンダワ5王子の誕生 弓の名手パンドゥは、ある日狩りに出掛けて、森の奥の池の畔で交尾している雌雄の鹿を発見した。パンドゥが二頭を矢で射殺すと、怒った鹿の魂が「夫婦で睦みあうと命を落とす」と呪いの予言を残した。 これは宇宙支配神グルが、インドロ神に由来する大地の安全と幸福へのたゆまぬ努力の知恵をパンドゥ(☆)から消滅させるため、罪に陥れて天界の火山に投じるべく、聖僧が鹿に化けた所を殺させようと仕組んだ、という話もある。 まだ子を得ていないパンドゥが妻のクンティに相談すると、クンティは神と交わり、子を授かれるドルウォソの例の呪文(☆)について打ち明ける。パンドゥは喜び、その方法で子を得られるように頼んだので、クンティは呪文を唱えた。
が、ビモは堅い膜に覆われて誕生したため、誰一人割る事ができずに森にあった。 やがて自身でその殻を破って(象が割ったともいう)出て来ると、握りこぶしをしたままで、その拳から一本の爪が生え、強力な武器となっていた。 その殻のかけらをナロド神が拾い、空を飛んで地上に投げると、苦行者スムパニ(☆)の足元に落ちて来た。 スムパニは妻との間に子が出来ず、子宝を授かるために山中で苦行していたから、その殻に祈りを捧げた所、殻が姿を変えて赤ん坊となった。この赤ん坊をジョヨジョトロ(☆)と言う。 ジョヨジョトロは容姿がビモそっくりだったため、成長するに従いビモを慕い、いつかビモ(☆)に仕えたいと切望するようになる。 しかし今はまだ当のビモは森の中におり、パンダワの兄弟達とも会えぬ8年もの歳月を、そのまま森の中を転々とする運命にある。 三人目の神は天界守護神インドロ(☆)。宇宙支配神グル(☆)(=シヴァ)の支配下にあって、天界の妖精たちを監視している神で、クンティは三男アルジュノ(☆)を授かる。
以上、5人を総称して「パンダワ」といい、系譜の七代目にあたる。 |
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