<マハーバーラタ・25〜28>


25、パンダワ達の12年

妖精達と天界で暮らすアルジュノ)はそのうち実父インドロ)神に、兄弟たちの居る下界に戻りたいと申し出て帰って行くが、アルジュノを慕った妖精の一人イルワシ)は、嘆きのあまり気が触れ、これを哀れんだインドロ神は、イルワシが下界に下りる事を許可した。

イルワシは下界では暮らせず、アルジュノイルワシを諭した上で拒んだため、イルワシは呪いをかけ、アルジュノを両性具有の体にしてしまう。
困窮したアルジュノは天界に戻ってインドロ神にすがるが、インドロ神は「その方が13年目の刑の時、コラワの目を騙すのにちょうどよい」と、そのままアルジュノ)を地上に送り返した。

ダストロストロ)王はパンダワを案じ、森を通りすがるバラモン僧たちの情報によってその生存を知ると、ドゥルユドノ)やコラワ王子たちが暴挙を起こそうと計画するたびに、パンダワの盾となりあるいはコラワを諌めた。
またコラワ側にも、パンダワにアマルト)国を返還すべきでは、という同情意見も出た。

しかし国を返す気の無いドゥルユドノは、こうした声に、返ってパンダワを大軍で攻め滅ぼさなくては、という気を強め、獣退治と称してカルノ)を大将に仕立て軍を動かした。
ところが野営中にラクササ軍に襲われ、ドゥルユドノだけが捕虜となったため、森のパンダワに救いを求めた。

ビモ)はこの期にラクササと手を組んでコラワを打とうと提案するが、ユディスティロ)がこれを諌めたため、結局ラクササ軍討伐に向かい、ラクササ軍は即座にドゥルユドノを投げ出して去った。
ドゥルユドノ)は恥じ入り自害しようとするが、スンクニ)とカルノに説得されてアスティノ)国に帰った。

そこに千人の修行僧が現れ、アスティノ国ではこの接待を迫られたため、コラワ達は修行僧たちがその後、パンダワの元に行くように仕向けた。なぜなら、苦行僧の怒りを買うと呪いを受けるからである。

しかしユディスティロが祈りを捧げ、神から六人分の食料となる椰子の実の固い殻を授かったため、この後パンダワが食に飢える事は無くなった。
無論それだけでは千人には足りないので、ドルパディ)がクレスノ)に頼ると、クレスノは千人の修行僧たちに会い、苦行僧たちはウィスヌ)の化身に会えた光栄で空腹を満たしたため、パンダワは呪いを受けずに済んだ。

12年間を生き延びたパンダワの前にバラモン僧が現れ、「祈祷中に鹿が香炉を角にひっかけて去った」と告げた。
僧侶のために鹿を探索する内、パンダワ達は喉が渇き、ナクロ)が樹に登って湖を発見した。ナクロは死神ヨモディパティ)の問いに答える前に水を飲もうとしたため、その場に倒れ、帰って来なかった。

兄弟達はナクロを探しに出かけ、皆帰って来ない。最後にユディスティロが行くと、兄弟たちは皆、死んでいた。彼は死神の声に答えて問答に応じ、その答が正しかったため、死神は弟のうち一人だけ蘇生させようと持ちかけられる。

ユディスティロナクロを選び、その理由を問われて、ビモアルジュノは同母であり、ナクロ)とサデウォ)は異母である、違う母から生まれた子孫をともに絶やさぬためである、と答える。
ヨモディパティはこの答に感じ入り、4人全てを蘇生させ、13年目の刑を無事に終えられるよう彼らを守護した。



26、最後の一年

13年の刑の最後の一年は、誰にも身分を知られず過ごさねばならなかった。
ウィロト)国のマツウォパティ)王の庇護を頼って、ユディスティロ)はバラモン僧、ビモは料理人、アルジュノは舞踊と音楽の指導者、ナクロは馬の調教師、サデウォは牧夫、ドルパディは宮廷の侍女にそれぞれ変装して生計を立てた。

コラワ達はパンダワがウィロトにいるとは知らず、ただちょうどウィロト)国を北から割譲する計画を持っていたので、ウィロト国の南にあるトリガルト)国からの申し入れに乗じて、南北から武力で挟み撃ちにした。

トリガルト軍は戦闘によってマツウォパティ)王を捕えたが、ユディスティロの命でビモマツウォパティ王を奪還し、今度はマツウォパティ王がトリガルト軍を、マツウォパティ王の第二王子ウトロは北のアスティノ軍をそれぞれ迎え撃った。

また、北を第一王子セト)、南を第二王子ウトロが担当したという話もあり、兄セトは超能力をもつ剛将として知られ、すこぶる勇猛果敢だったが、弟ウトロはとんだ腰抜けで、支援についたアルジュノに「あれはカルノ)の弓矢の幟(のぼり)、ドゥルノ)の蛇の幟、ドゥルユドノの象の幟」と説明されただけで、叫び声をあげて退散しかかり、アルジュノに叱られて、ようやくアルジュノの後方で見守るだけだった。

アルジュノ)は見事アスティノ軍を蹴散らし、その途端ウトロは自分の功績だと父マツウォパティ王に報告する。
しかしアルジュノの活躍は誰の目にも明らかで、これをパンダワのアルジュノ王子と見抜いた者も大勢いたが、皆が、あと3日で刑期が終える事を心得ていたので一人も指摘する者はおらず、こうしてパンダワは無事13年を終えたのだった。

アビマニュ)は、二人の美しい姉妹を山から連れ帰ろうとしていた。
姉妹はアルジュノの娘で、一目父アルジュノに会いたいと旅する途中、養育係だった男に横恋慕され、身の危険から口先だけ結婚の約束をするが、そこをカルノ率いるコラワ軍に攻撃される。

ガトゥコチョ)はアビマニュを始終守備していたから、アビマニュを助け、二人の娘の姉プルギウォ)に一目ぼれする。
プルギウォは、ドゥルユドノの子レスモノモンドロクモロ)に妻に望まれるが、恋の虜となったガトゥコチョが、母アリムビ)にプルギウォの事を打ち明けにプリンゴダニ)へ行き、結局ガトゥコチョと結ばれ、サシキロノ)という男子を得た。



27、アビマニュの二人の妻

又しても失恋したレスモノモンドロクモロは、今度はクレスノの娘シティスンダリ)を妻に望んだが、シティスンダリは最初から、アルジュノの子アビマニュの妻になる手筈で、結局シティスンダリアビマニュ)の妻となる。
が、二人の間には子が生まれなず、そこに思わぬ縁談が持ち上がる。

ウィロト国の災難を何度も助けられた今や、マツウォパティ)王も大のパンダワ贔屓となり、13年目の刑期には彼らを庇護する立場を取ったのみならず、パンダワの刑期も終えた今、パンダワの中でも最も好ましいアルジュノ)を婿に選び、娘のウタリ)を薦めた。

が、アビマニュも長い放浪時代の間に成長し、神の意思により、パンダワ嫡子の資格を与えられた者であり、しかもまだ子が無いので、アビマニュに嫁がせる事となった。
ウタリアビマニュにとっては祖母にあたる年齢、つまり七十歳は超えていたが、神意による長寿と若さを与えられ、見た目も健康も17歳の生娘同様だったという。

ところが誰もシティスンダリにはこの結婚を告げず、シティスンダリ)は、結婚式でアビマニュの居ない間は、アビマニュ)の従兄弟ガトゥコチョがおさめるプリンゴダニ国に預けられ、ガトゥコチョ)と一緒にその伯父コロブンドノ)も傍についていた。
シティスンダリアビマニュの行方を聞かれると、ガトゥコチョはすっとぼけたが、嘘のつけないコロブンドノは、生真面目にウィロト国だと答えた。

シティスンダリが夫を迎えに行って欲しいと頼むと、コロブンドノウィロト国に旅立ち、忽然と新婚のアビマニュ夫婦の前に現れた。
アビマニュウタリにも自分は独身だと嘘をついていた。しかも「嘘だったら、自分は後の日の戦争において、ザルの網目の風穴を体の傷に負うだろう」などと新妻に言っていた所に、突然コロブンドノが来訪したので、度肝を抜かされ、平手打ちを喰らわせ追い返した。

コロブンドノ)はプリンゴダニ国に帰り、ありのままをシティスンダリに話そうとした。
慌てたガトゥコチョは、やはりコロブンドノを引きずり出して平手打ちを食らわせた。あげく、逆上してその首を捻じ切った。
殺してから慌てたガトゥコチョは、霊魂となったコロブンドノに自分を殺して欲しいと頼むが、コロブンドノの魂は「やがて戦になった時、カルノの武器に乗り移って追跡する」と約束し、"時間待ちの天界"へと旅立った。

この「カルノの武器」とは、アルジュノからカルノが横取りしたスンジョト・クント)の事で、その鞘はガトゥコチョの臍の奥にあり、剣が鞘に収まる事を意味した。



28、クレスノの眠り

ガトゥコチョ)は嘘は良くないと反省し、シティスンダリウィロト)国に連れていく。シティスンダリ)はウタリの存在に、一方のウタリ)もシティスンダリの存在に互いに驚いた。

ウタリの父マツウォパティシティスンダリの父クレスノは、互い二人の娘を前に、アビマニュウタリの生む子が、やがて王位を継ぐという天の啓示を受けた、と初めて教えた。
二人の妻はようやく納得し、以後揉め事なくともに暮らしたので、あとはガトゥコチョコロブンドノの約束だけが残された。

パンダワの13年の刑期が終わるや、パンダワ母クンティ)も、身を寄せていたパンチョロ)国から国王ドルポド)と共にウィロト国に行き、5人の息子達と再会すると、すぐさまアスティノ国に出向き、ヨモウィドロ)とも合流して、ドゥルユドノに国土返還を求めた。

ドゥルユドノの傍らにいた宰相スンクニは「パンダワの居なかった13年、王国を維持するにかかった費用と労力として、アマルト国に換算される費用の二倍を支払わなければ、国土を返すわけにいかない」と要求を突っぱねた。

クンティは失神し、ヨモウィドロ)の抗議も聞き入れられない。婿ユディスティロのために展開されたドルポドの抗議も「舅(ドルポド)と従兄弟(ドゥルユドノ))では、従兄弟の方が血の繋がりが濃いから決定権も強い」と撥ね付けられたため、誇り強いドルポドの口からは、ついに「戦いで決着」という言葉が出るに到った。

各国の王はコラワに着くかパンダワに着くかで騒然とし、戦いの成り行きに早くも気を揉んだ。
ドゥルユドノは、眠りの苦行をしているクレスノ)を目覚めさせた方が勝つ、という天のお告げを聞き、妻バヌワティ)に相談したが、バヌワティは「自分がアルジュノに頼み、アルジュノクレスノに頼めば目を覚ます」と意地の悪い答えを返した。

仕方なくドゥルユドノは祭壇を整え祈願したが、自分が眠りこけて成功せず、義兄弟のボロデウォ)とカルノ)(は妻同志がドゥルユドノと姉妹)に兵を率いさせ、クレスノドロワティ)国に攻め入らせた。
義兄スティアキ)やスティヨコ)はクレスノの身辺を護ったが、猛将カルノはこれらを打ち負かしてクレスノに会った。

     
  <コメント>

13年の刑を宣告されたパンダワ。
13年……どんなに長い話になるんだろう、と思いきや、意外とさっさとそこは通り過ぎます(笑)。

13年もさらに無駄に暮らす内、ジャンジャカ生まれた子供達(オントセノやガトゥコチョやアビマニュ)もドンドン大きくなった、という所がミソです(^^ゞ。

ウタリは70歳……(^_^;)。彼女の父マツウォパティは、妹がパンダワ系譜4代ポロソロの妻となり、また自身の妻にはポロソロの娘(レコトワティ)を迎えてますから、4代ポロソロか5代アビヨソと同世代と見るべきでしょう。

すると、娘のウタリは、5代アビヨソか6代パンドゥと同世代。せいぜい若返って7代アルジュノの妻あたりが妥当なのですが、8代アビマニュの妻に……(汗)。

思えばパンダワ兄弟達は、それぞれ父が神様達であって、血統的には6代から途切れています。
ウタリの母がレコトワティなのか私は知らないのですが、もしそうであったとしたら、女系としてようやく繋がることにはなるんですね(^^ゞ。

いよいよ旧領返還の時期が来ました。
この辺りの図は、さながら平将門の乱を思わせます(^_^;)。

すなわち、パンダワ達にとってアスティノ国は「父の遺領」。
将門が、その父良将(よしまさ)の遺領を「伯父達に横領された」と言い出すのに似ています。

また、サルヨの三姉妹がおおかたコラワ側に嫁いでいるため、サルヨは甥のパンダワより、娘の嫁ぎ先の味方をするハメになっていきます。
この辺りも、将門の伯父達は皆、源護の娘を妻にして、甥の将門より娘の嫁ぎ先の源護の味方になる。すごく似てますよね(笑)。

ただ違うのは、パンダワの伯父ダストロストロは、決して甥(パンダワ)達の領地を我が物にする気はなく、妻グンダリの執念と子のコラワ達の強欲として描かれています。

またサルヨも、自身は妻の嫁ぎ先より、甥のパンダワに心引かれていました。これまた婿ドゥルユドノの計略に乗せられます。

もう一つ、ストーリーの影に隠れて見過ごしがちですが、今回パンダワ達は世話になっているウィロト国の危難を救うためとは言え、初めて祖国アスティノ国の軍と戦闘をした(とも見れる)わけです。
この辺り、ラコン(一夜に演じられる演目)によって、北か南かの違いがあるようで、一概に「この時をもって戦闘状態に入った」とは言えないのですが、こんな風に長く祖国を離れている内に、祖国と複雑な関係となってしまう事は、現実としてもよくある悲しい事ですね。

さてさて、ここまで7回に渡って綴って来た、この「マハーバーラタ」、ここまでは本当にまぁ次々と「これでもか」ってぐらい新たな登場人物が出て参りましたが、ようやくこれでほぼ全てが出揃ったかと思います(^^ゞ。
これより後も、チョボチョボとはまだ出て来ますが、だいたいはここまでに出て来た者達の遣り取りが基軸になって来ますので、今後はそう気にならなくなって来るかと思います。



<因縁(および誓い)メモ>

ビスモに対するオムボの因縁−02話
パンドゥ一族(つまりパンダワ)へのプリンゴダニ国ラクササ一族の因縁−03話
サルヨに対するパガスパティの因縁−05話
パンダワ兄弟に対するグンダリの宣戦布告−06話
スンクニの急所−06話
ボゴデント、クルティペヨ、ガルドパティ、ウレソヨら、飛ばされたコラワ兄弟の集結−09話
ドルポドとドゥルノの確執−10話
ドゥルノに対するパルグナティの因縁−10話
アルジュノパティに対するクレスノの命令−10話
イジュロポ親子の「神に捧げる人身御供」になる約束−13話
サゴドロの「神に捧げる人身御供」になる約束−13話
ガトゥコチョの臍に吸い込まれた鞘とカルノの剣の合致−16話
アルジュノに対するジョトギンバル(ラクササ)一族の復讐心−21話
ドゥルユドノの膝を叩き割る、というビモの呪詛−23話
ドゥルソソノの血で洗うまで髪を結わない、というドルパディの誓い−23話
ドゥルソソノの腹を引き裂く、というビモの誓い−23話
ザルの網目の風穴を体の傷に負う、というアビマニュの誓い−27話
カルノの剣に乗り移ってガトゥコチョを死に誘う、というコロブンドノの誓い−27話
クレスノを眠りから覚ました方が戦に勝つ、という天啓−28話



尚、来月(3月)は石和レポにいそしむため(^_^;)、1回お休み致します。
4月末か5月初ごろ、また再開したいと思います〜(^^)/。
 
     



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