<マハーバーラタ・13〜16>

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13、パンダワの放浪

焼き討ちにあったパンダワ達は、巨男のビモ)が一人で母クンティ)と兄弟たち全てを背に負って火中を逃げ惑っていた。ドゥルユドノ)の姦計に気づいたパンダワの叔父ヨモウィドロ)は、息子スンジョヨ)に命じ、スンジョヨが炎の中で大地に重代の武器を突き立て地界に場所を知らせた。すると白イタチが現れた。

この白イタチは、 七層の地界に住まう蛇神オントボゴ)の娘ノゴギニ)の弟の変身した姿だった。ノゴギニは落ちて来た流星がビモに姿を変えた夢を見て恋に落ち、ビモの危機を助けるため、自分の弟を地上に遣わしたのだ。白イタチはパンダワ達を導いて地底をくぐった。

地底でパンダワ兄弟達はその主である蛇神オントボゴに会い、ビモノゴギニと結ばれて息子オントセノ)を儲けた。
しかしこの事件をきっかけに、母クンティとパンダワ兄弟達は、長い間、森の中を放浪する生活を余儀なくされたため、ビモ)の妻ノゴギニと、その子オントセノはひとまず地界に残った。

一方ドゥルユドノは、パンダワ兄弟とその母クンティと思われる焼死体が焼け跡から発見されたため、パンダワ達の死を確信し、長老がたも他国の王も認めない内から自ら王を名乗り、これより実質アスティノ)国王となってしまった。

森を放浪するパンダワ兄弟達は空腹に耐えかね、一軒の農家を訪ねた。一家の主は農夫イジュロポ)で、彼の村は大きな災難に見舞われていた。
隣国に牙をもつラクササ族の人食い王ボコ)がいて、ボコパンドゥ)亡き後の隣国アスティノ国の政情不安をいいことに、軍勢を繰り出したり、人身御供を出せと要求しては国じゅうの人間を食い尽していた。

そこで、ビモが人身御供の身代わりになって乗り込み、ボコ王とその一族を退治する。イジュロポとその息子は御礼として、「来たるべき戦争の時に、神に捧げる人身御供になる」と約束した。

しかし恵まれた王宮暮らしから一転、野営暮らしを強いられたパンダワが、始終空腹に悩まされる心もとない毎日に変わりはなかった。
飢えに泣く幼い弟ナクロ)とサデウォ)を見かねたクンティは、アルジュノ)に食物探しを命じた。アルジュノはある村に入り込んで、ちょうど手桶で泉を汲んでいた女の尻を撫でた。

女は仰天して家に帰り、夫サゴドロ)に抱きついて訴えた。が、この妻はそれまで夫に体を触らせる事すらなかったので、むしろサゴドロアルジュノに感謝し、山盛りの珍味を提供したばかりか、やはり「来たるべき戦争の時に、神に捧げる人身御供になる」と約束した。

パンダワ兄弟とその母クンティは山間の森での生活に疲れ、ウィロト)国に入り込んで、ビモが家畜の屠殺業につくなど、兄弟それぞれが名を伏せて職についた。



14、ウィロト国の内紛

ウィロト国王マツウォパティ)には、長男セト)、次男ウトロ)、三男ウラトソンコ)、娘にウタリ)がいた。
ウィロト)国は大きな山々と大海、港と田園に恵まれた大国で、大臣も将兵も王国の守護によく務め、植物もよく育ち物価も安く、家も多く商人も活躍する大都市だった。

が、マツウォパティは内紛に悩んでいた。その原因は、表面的には盗賊の跋扈であったが、それらを捕えるうちに、彼ら盗賊達を裏で操っているのがロジョモロ)である事がわかった。

ロジョモロマツウォパティ王妃レコトワティ)の兄だった。
この兄妹はパンダワ祖父アビヨソ)の腹違いの兄弟で、他にも双子の弟ルポケンチョ)、ケンチョコルボ)がいた。(全員が腹違いながらパンダワ曽祖父ポロソロ)の子供達で、パンダワには大叔父、大叔母にあたる。またマツウォパティ王はパンダワ曾祖母サティヨワティ)の兄でもある)

王妃の兄弟ゆえに皆マツウォパティ)王の家来だったが、ロジョモロはこの双子の弟達も加担させ、王妃の兄弟ゆえに驕った態度を取り、家臣の立場を利用して盗賊たちを操り、王国を乗っ取ろうと企み、国を混乱に陥れていたのである。

三兄弟たちは、ついにマツウォパティ王とその息子のセト王子を殺そうと、闘技大会の開催をマツウォパティ王に迫った。
さらにロジョモロは神秘の池を持っており、たとえ殺されてもこの池の水を浴びると蘇生できたので、大会出場者を集うにあたり「自分を倒す勇気のある者がいなければ、マツウォパティ王自身が出てもいい」とまで豪語する。

しかし蘇生の秘密はパンダワに知られ、闘技大会に出場してウィロト国を救ったのが、この頃、家畜屠殺の腕を知られたビモであった。ビモロジョモロ)を刺し殺しても、ロジョモロは蘇生しなかった。
その後、双子の弟ルポケンチョケンチョコルボとも戦う事となったが、アルジュノが加勢して二人を打ち破る。

この功績によって、ウィロト国のマルトの森()を与えられたパンダワ兄弟達は、これを開拓し、新しい国造りに励んだ。

マルトの森を開拓するパンダワ達の前に立ちはだかったのは、プリンゴダニ)国のラクササ達であった。
プリンゴダニ国王トルンボコ)は、かつてパンドゥに倒されて死んだが、息子にアリムボ)、ブロジョドゥント)、プロジョムスティ)、コロブンドノ)、娘にアリムビ)がいて、彼らはラクササながら、夜でも闇を見通せる超能力を持ち、また一族の声音を真似て敵を惑わせるという、なかなか侮れない者達だった。



15、ラクササ王国の一族

ラクササ一族の中でも長男アリムボは強欲で人食い癖があり、常に人の臭いを嗅ぎつけ、この時も妹のアリムビを使って餌食を探していた。
しかしアリムビは、ビモ)を一目見るや恋に落ち、ビモの目前に出て「自分を嫁にしてほしい」と願った。

アリムビは見るも無残なラクササ女なので、ビモは怒り狂ってアリムビ)を殺そうと騒ぐが、聞きつけ駆け付けた母クンティ)は、アリムビを見るや「美しい娘よ」と呼びかけた。
するとアリムビは、見る見る美女に姿を変えた。ビモも驚き、妻となる事を承認。やがてアリムビビモの子を腹に宿した。

これに怒ったのは長兄アリムボである。しかし彼はビモ)と戦って倒され、次弟ブロジョドゥントアリムボの子ウシアジ)は、祖父・父・兄の仇として、パンダワへの復讐心に日を過ごした。
一方、プロジョムスティコロブンドノといった末弟達は、アリムビの結婚相手となったパンダワを好意的に受け止めた。

アリムビプリンゴダニ)国において男子ガトゥコチョ)を生んだが、どういうわけか臍の緒が切れず、父ビモ、伯父ユディスティロ)、叔父プロジョムスティコロブンドノは勿論、クレスノ)やその兄ボロデウォ)も駆けつけて気を揉んだ。

山中で修業に励んでいたアルジュノも遅れて駆けつけようとしたが、途中でナロド)神から、天界を脅かすラクササを倒すための武器を受け取る事となる。

この天界を脅かすラクササというのは、いつも天界に住む妖精を嫁にするのが目的で、この時はコロプルチョノ)というラクササがスプロボ)という美女を求めて暴れていた。

この時、やはり苦行に励んでいたカルノ)の前に、太陽神にして実父スルヨ)が現れ、スンジョト・クント)という武器(剣)を今、ナロド神がアルジュノ)に与えようとしているから、横取りせよと忠告する。(スルヨは神々の中でも野党で、与党のグル)やナロドインドロ)、バユ)達と同じ内閣に属してないらしい)

ナロド神はスルヨの太陽光に目が眩み、またカルノアルジュノに似ていたため、アルジュノと見間違え、先に来たカルノクントを与えた。
後から到着した本物のアルジュノに会ったナロド)は、クントを奪われたと気付いてアルジュノに告げた。



16、ガトゥコチョ誕生譚

アルジュノは急いでカルノに追い付き、戦いになったあげく奪い返したと錯覚した。
が、アルジュノ)が手にしたのは鞘だけだった。カルノ)はまんまとスンジョト・クントを手に入れたのだ。

アルジュノナロド神は、鞘だけを持ってプリンゴダニに到着。ガトゥコチョの臍の緒は鞘で断ち切られた。

ガトゥコチョは赤ん坊ながら、母アリムビ)の血筋で夜の闇を見通せ、また父ビモビモの父は風神バユ)の血筋で大空を飛翔する能力を持っていた。

しかし同時に鞘と、そばにいた叔父プロジョムスティが、ガトゥコチョの臍の中に吸い込まれた。
こうしてガトゥコチョ)の臍の奥には、やがて訪れる大戦において、カルノの持ち去ったクント)と合わさるべく鞘が潜み、クントと鞘が合致して死に到った時、その遺体に近付く者を噛み殺すために、叔父プロジョムスティ)も潜み続けた。

また、カルノの額にはアルジュノと戦って出来た傷があると言われ、その傷を隠すために、ナロド神が被り物を用意したとも言う。

被り物をしたカルノ→
(基本的にカルノの顔はアルジュノと同じ)

ガトゥコチョは赤ん坊ながら怪力で、当初クントをもたらされた時の命題であった天界のラクササ退治を請け負い、このラクササ軍を投げ飛ばした。が、ラクササの息で吹き返される。
神々はガトゥコチョを天界の火山に投入れ、鉄の筋肉と骨の持ち主に補強すると、グル神も三種の武器=空飛ぶサンダルと翼、冠を与えて応援したので、ガトゥコチョは、ついにラクササ王コロプルチョノを倒すに到った。

生まれながらにこんな誕生譚をもつガトゥコチョは多くの人に愛された。中でも特に伯父コロブンドノが愛し、始終そばについて離れなかった。

こうして相変わらず放浪を続けるパンダワの元に、祖父アビヨソ)が現れた。パンチョロ)国で行われる、ドルポド)王の王女ドルパディ)の婿選びの儀に行くよう指示するためだった。
ドルパディは前世において、優れた武将と結ばれるよう神に祈りを捧げ、そのために5回も生まれ変わった女性であり、その父王ドルポドは、屈強な武将を婿に迎える事によって、パンチョロ国の半分の領土を奪ったドゥルノ)に対抗しようとする、いずれも誇り高い父娘であった。

一方ドゥルユドノはパンダワ達の死を確信し、あとは国王である父ダストロストロ)に認めて貰うだけと思い、まずは箔づけに妃を娶る事にし、やはりこの婿選びの儀にカルノを伴って訪れていた。

     
  <コメント>

以上、今回はビモの結婚と子の誕生に関わるお話でした。
この辺りもだいぶ日本の神話に似た部分がありますね(^^ゞ。

ただ、今回の森を放浪してる間の話やラクササ達が出て来る場面は、ワヤンでは長々と扱われるのですが、インド版にはその後の話としてコンパクトにまとめられてるようです(^^ゞ。

そう聞くと「なるほど」と思うのは、パンダワ兄弟が各々どれぐらい年齢が離れてるのか不明な点(^_^;)。彼らの二人の母がそれぞれ呪文で子を儲けた時は「いっぺんに」ではなかったのか、ビモ・アルジュノ・ナクロ・サデウォ達の間には、結婚して子をなす次男、食糧を探す三男、ただ飢えに泣く末弟の違いがなぜかあるのです(笑)。

さて、今回やっと登場したマツウォパティ王の一族。
マツウォパティ王自身とは、パンダワ曾祖父ポロソロの代に深い繋がりがあったようで、ポロソロの子(アビヨソ以外)はマツウォパティ王の王妃や家臣となり、また曾祖母サティヨワティはマツウォパティの妹との事です。

このマツウォパティ王やその子供達もこの後パンダワに関わって来ますが、記憶すべきは彼らの属する「ウィロト国」の方なんです(^^ゞ。これが今度しばらく、アスティノ国同様に物語の舞台として登場します。

そして今回もラクササがたくさん登場しました。
「前書き」に続く「用語・ラクササ」にも書いたように、ラクササは話の全体を通して、すごく登場の多い存在ですので、この機に「それっぽいワヤン」を出してみます(^^ゞ。雰囲気だけでもお伝えできれば幸いです。

←図鑑で調べましたが、何のワヤンかは不明(^_^;)。でもラクササちっくな容貌なので出してみました。

アノマン→
「ラーマーヤナ」に登場する猿の大将。善玉です。

今回出した「カルノ」や、前に05話〜08話に出した「クレスノ」「ユディスティロ」「アルジュノ」といったシリアス調のワヤンとは違い、とてもユニークな顔をしてますよね(^^)。

ただ、この二体のワヤンが「ラクササの代表」というワケではありません(^^ゞ。もっと力んだ、いかつい顔をしたラクササ、ドッシリした大きな体格のラクササ、顔の皮膚がブカブカにたるんだ、見るからに醜さを強調してるラクササもいますが、手持ちの写真にそうした物が無かったので、上の二つで代用した事をお断りしておきます。

が、それでも全体的に、「怪物」と聞いて我々が想像するような「ゾッとする怖さ」を持ってるワヤンは無さそうです(^^ゞ。
またダラン(人形使い)が動かすと、「ヨヨヨ」と泣いたり、「オロオロ」したり、さらに人間味のある感情の持ち主となり、概して性格はみな明るい感じがします(笑)。

ラクササは概して「周囲をウロウロする」だけだったり、「その時の話に必要」なだけの役割が多いのですが、この下に続く<因縁(および誓い)メモ>にもある通り、今回14話から登場したプリンゴダニ国のラクササ一族は違い、その他多くのラクササ達の中でも特に出場回数が多く、出番の期間も長いです。

主役であるパンダワの一人ビモと婚姻関係を持ち、シリアス調の王族と珍しく「内輪の関係」に組み込まれる一族だからです。
インドの原型には、こういう事があるのかちょっとわかりません(^^ゞ。この辺りの設定になると、あるいはワヤンやインドネシアに独特のものなのでしょうか……。

ただこれまでにも「マハーバーラタ」全体を通して、殆ど全ての登場人物達が、すご〜く単純に「見た目」「美醜」で好き嫌いを決めてる事だけはよく判りますよね(笑)。
これがこの世界に流れる「常識」って感じで、始終お話は推移します(^^ゞ。

今回出てきたプリンゴダニ国のラクササ一族も、やはり今回誕生したガトゥコチョゆえに登場します。彼らラクササ達にとって、美しい王族との間に生まれた血縁は特別な存在なのかもしれません。
原型のインドではどういう扱いなのか判りませんが、何しろ今回生まれたビモの子ガトゥコチョは、インドネシアでは大変な人気者なのだそうです。



<因縁(および誓い)メモ>

ビスモに対するオムボの因縁−02話
パンドゥ一族(つまりパンダワ)へのプリンゴダニ国ラクササ一族の因縁−03話
サルヨに対するパガスパティの因縁−05話
パンダワ兄弟に対するグンダリの宣戦布告−06話
スンクニの急所−06話
ボゴデント、クルティペヨ、ガルドパティ、ウレソヨら、飛ばされたコラワ兄弟の集結−09話
ドルポドとドゥルノの確執−10話
ドゥルノに対するパルグナティの因縁−10話
アルジュノパティに対するクレスノの命令−10話
イジュロポ親子の「神に捧げる人身御供」になる約束−13話
サゴドロの「神に捧げる人身御供」になる約束−13話
ガトゥコチョの臍に吸い込まれた鞘とカルノの剣(スンジョト・クント)の合致−16話

(※・太字は今回の話に該当)

 
     




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