<マハーバーラタ・53〜56>
53、ドゥルユドノ×ビモの戦い コラワに残るはスンクニ(☆)だけだった。スンクニは出陣してスティアキ(☆)と対戦する。 悪知恵だけに長け武勇など無いから、誰もスンクニが手ごわいと思わなかったが、意外にも余裕で高笑いしながら挑発し、しかもスティアキの武器が全く利かない。 クレスノ(☆)はビモに「スンクニ(☆)は不死身だ。しかし肛門にだけ急所がある」と教えたので、ビモ(☆)はスンクニを棍棒で殴りつけてフラフラさせ、両肩をつかんでひっくり返し、爪をスンクニの肛門に差し入れると、一気に全身の皮膚を二つに引き裂いて絶命させるに至った。 残るはドゥルユドノ(☆)だけとなった。 ドゥルユドノは武具を脱ぎ捨て、褌だけで池の底で瞑想していた。誰も彼を探せなかったが、クレスノだけが彼を見付け、池のほとりから「戦争は終わった。出て来て我々とともに生きていい」と声を掛けたが、ドゥルユドノは返事もしなかった。 そこに、これまで大地の神の怒りを恐れて修行所にいたボロデウォ(☆)がやって来た。そろそろ戦が終わるので、ナロド(☆)神が「結末を見よ」と呼んだのだ。(もっと後で、完全に戦争が終わってから登場する、という話もある) ボロデウォが声を掛けると、やっとドゥルユドノは出て来た。ボロデウォは弟クレスノとしばしば対立していたし、ドゥルユドノ(☆)とは妻同士が姉妹(エロワティ(☆)とバヌワティ(☆))だったからだ。 王であった彼は一人で衣服も着られず、クレスノの手を借りて着ながらも「多くの兵を死なせ、財宝もその恩賞に武器に費えたと言うのに、一人生き残れようか。自分がいる限り戦は終わらない!」と挑戦した。 クレスノも当然その気だったから、対戦相手を聞いた。ドゥルユドノはビモを選んだ。ドゥルユドノもビモも棍棒の使い手で、どちらもボロデウォの弟子だった。 誰にも負けた事のないビモが、勝利を目前に気が緩んだのか、最期をかけたドゥルユドノの気迫か、ドゥルユドノに圧倒され追い詰められた。 クレスノ(☆)はアルジュノ(☆)に「ドゥルユドノ(☆)の太腿を打つように合図しろ」と言う。下半身を打つのはタブーであるから、アルジュノは驚いた。が、兄ビモが危ないのは確かなので、ビモ(☆)に見せるように自分の太腿を叩いた。 ジョクジャではここで、クレスノは従者ペトル(☆)に(ジャワ語で)「思い出せ(こめかみの意)」「残酷な(太腿の意)」と言わせる。ビモは最初の一言だけ聞いてコメカミを撃って倒す(ルール違反はしない)。 一方ルール違反をする話(こっちが原産)では、アルジュノの動作を見たビモは、ドルパディ(☆)がドゥルソソノ(☆)に衣服をはがされ、髪をつかんで引きづられた時、ドゥルユドノが自分の太腿を手で打って喜んだ事を思い出し、跳躍してビモに襲い掛かったドゥルユドノの左太腿を思い切り棍棒で打つ。 54、戦争の終結 ルール(☆)違反の相次いだこの戦争を見てなかったボロデウォ(☆)は驚き、二人の弟子の間に入って停止させようとしたが、クレスノは例によって「過去の報いだから違反でもいい」と説明し、「自分の言う事を聞かないとまた天罰が下る」と、又もや兄を脅して退けた。 ビモは倒れて呻くドゥルユドノの周囲を踊りまわり、その頭を足で蹴った。 今度はユディスティロ(☆)が憤慨してビモ(☆)を叱り、「望むのならビモを死罪にする」と話し掛けたが、ドゥルユドノは力尽きて答えず、パンダワは瀕死のドゥルユドノ(☆)を放って立ち去ろうとした。すると、最期だけドゥルユドノはクレスノに「卑怯な戦法をビモに命じたお前こそ悪の根源だ」と呪いを口にしかけたが、言葉半ばで絶命してしまった。 こうして戦争は終結し、パンダワは晴れてアスティノ(☆)国に凱旋した。王宮に入ったアルジュノが何より先に探したのは、初恋の人バヌワティであった。しかし彼女はいなかった。 アルジュノは瞑想すると嘯いてバヌワティを探しに行く。 その直後、ちょうどウタリ(☆)がアビマニュ(☆)の子を産んだ。アビマニュ亡き今、子の名は祖父となるアルジュノがつけるべきだった。クレスノはアルジュノ(☆)がバヌワティを探している事を察して追い掛け、すぐにアルジュノを見付けた。 そのバヌワティ(☆)は、森に連れ去られてからアスウォトモ(☆)とカルトマルモ(☆)の悪計に気づき、必死に逃亡して、今は森の中を彷徨っていた。獅子や犀、野牛に出会ったが、気品高い香りに獣達は王族の女性と察し、恐れさせないように距離をおいて、その前後左右を護衛して歩いたから、身の危険は無かった。しかし衣服は夜露と枝と泥の邪魔にあってボロボロだった。 そんな所に出くわしたアルジュノは、一目でこれがバヌワティとわかり、二人は抱き合って再会を喜んだ。 バヌワティはアルジュノには「アビマニュの子の乳母にでもして貰えれば」と、えらくしおらしい事を言い、二人は手に手を取って王宮に帰った。 ウタリの生んだ亡きアビマニュの男子は、祖父アルジュノにパリクシト(☆)と命名され、その名は「戦争の終結」を意味した。パリクシトは系譜の九代目を継承する。 パリクシトが成長するまではユディスティロが政務を代行し、やがて成長したパリクシトが王位に着く事となり、同時に「正式な王位継承者はパリクシト」と認める儀式の場となった。 これには同族同士の戦争に心を痛めたユディスティロが、自分が王位に着く事を拒否したため、と話される事もある。 パンダワの祖父アビヨソ(☆)も、ようやく正当な継承が執り成された事に満足し、その場に来た天からの迎えの車に乗って、花と音楽に導かれ天界へ昇天していった。 55、復讐 ジョクジャでは、戦争の起こる前に、既にコラワの父ダストロストロ(☆)と母グンダリ(☆)は死んだ事になっているが、そこで死なない筋立てでは、このアビヨソの昇天を期に死ぬ話もある。 その筋立てでは、グンダリは戦争の間もパンダワを憎み続けたが、長男ドゥルユドノ、次男ドゥルソソノをはじめ、多くの子(コラワ)や孫が自身が望んだ戦争によって死に絶えた。 父ダストロストロは、一度も自分の息子達の王位を自ら望んだことはないし、甥のパンダワを敵視した事もないが、この時ばかりは息子達の全滅に絶望し、息子達の後追いの気持ちから、ここに来てパンダワを相手に戦場に立とうとする。 そこへ父アビヨソの昇天を聞き、全ての気力を失い、ダストロストロは剣で自らの胸を刺す。そして、ダストロストロとの結婚をあれほど嫌がって呪いの言葉を発したグンダリも、同じ剣で自害。夫の体に我が身を重ね、二人は息絶える。 (インド産では、この後もまだこの夫婦は生きていて、この後も出て来る) ダストロストロ夫妻の死に不吉を感じていた城内では、クレスノの指示でパリクシト(☆)の寝床にアルジュノ(☆)の秘矢パソパティ(☆)が置かれた。 一方、バヌワティに逃げられたアスウォトモとカルトマルモは未だに森にいた。 カルトマルモは、これまでコラワ王子として厚く遇されていただけに、野心を捨て切る事ができなかった。これを、今や父ドゥルノ(☆)の復讐を果たすべく鬼と化したアスウォトモが担いだ。 実父ドゥルノを戦争で失ったアスウォトモだったが、今も育ての親(ドゥルノにアスウォトモを預けられた)クルポ(☆)が付き従っていた。 クルポは二人の無謀を何度も止めたが、二人は聞かなかった。 夜の森で、ふくろうが巣に眠る鳥の群れを皆殺しにしたのを見て、アスウォトモ(☆)は夜襲を計画した。天界の妖精である母ウィルトモ(☆)を呼び、「決して振り返らない」という条件で、彼女のもたらした光を頼りに、王宮に続くトンネルを掘った。 ところが王宮の真下に達した時、アスウォトモは母のかもす光の真相を知りたいと振り返る。 光の出所はウィルトモの乳房か膣と言われ、振り返った途端に暗闇となり、母ウィルトモは「約束を破ったお前は呪われてるのだろう」と去って行った。 が、アスウォトモに幸いしたのは、戦の終了による安堵によるものか、兵が寝入っていた事だ。押し入ったアスウォトモは、ユディスティロの長男を殺し、闇夜に惑う将兵達を次々と倒し、父の仇ドルストジュムノ(☆)も殺した。 56、失意のアルジュノ さらにカルトマルモの命令で、弱い女子供を狙って女の館に侵入した。熟睡していた女戦士スリカンディ(☆)を即死させ、パリクシトのそばにいたバヌワティ(☆)を犯して殺した。 カルトマルモは、「パンダワ後継者のパリクシトを殺害すれば、パンダワは絶望して後追い自殺する」と思い、アスウォトモを宰相に任命、そして自らを王とこの時に自称した。 臣下アスウォトモ(☆)は、王に殺害をさせるわけにはいかないので、カルトマルモ(☆)を外に出し、自分が手を下そうとしたが、あやされてると勘違いし無邪気に笑う赤ん坊パリクシトは、はしゃいで足を蹴り上げ、その足から発せられた矢が命中し、アスウォトモは落命した。 (ワヤン以外の物語ではパリクシトはこの時に死亡し、クレスノに蘇生させられる) クレスノやアルジュノがようやく駆けつけ、クレスノの呪いの言葉で、死体となったアスウォトモは蛆虫になる。慌てて逃亡したカルトマルモはビモに捕まり、やはりクレスノ(☆)の呪いで羽虫になった。 クルポは自らの無力を嘆き、裁きを受けようとしたが、彼に罪がないことを見抜いたクレスノはドゥルノ亡き後、その息子アスウォトモの物となるべきだった国の領主に任じた。 同じようにビモにはドゥルソソノの領地を、ナクロ(☆)とサデウォ(☆)にはサルヨ(☆)のモンドロコ(☆)国が与えられた。 アルジュノは病に伏した。ドルパディとスムボドロ(☆)が看病したが治らない。そこにクレスノが、戦争話にかこつけてバヌワティの事を仄めかし、「その美女に生き写しの女がスリウェダリ(☆)国王の妃である」と告げた。 これを聞いた途端アルジュノは飛び起きて旅に出る。アルジュノの妻スムボドロは、夫にこうした異様な行動をさせる兄クレスノに怒り、「兄上は世を平穏にするどころか騒動の種でしかない」と皮肉を言った。 しかしアルジュノの心を察したクレスノは車で迎えに行き、アルジュノ(☆)を乗せてスリウェダリ国に着くと、アルジュノを車の中に置いて、国王に会い、お前の妃を差し出せと要求した。 その国王とは、かつてクレスノ(☆)が「自分の言う事は何でも聞け」と言っておいた、パルグナティ(☆)の息子アルジュノパティ(☆)だった。 |
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