<マハーバーラタ・49〜52>
49、スルティカンティの自害 こうしてアルジュノ(☆)は車の操者にクレスノ(☆)を配し、ビモ(☆)、ユディスティロ(☆)もともに出撃する「三日月の陣形」で出陣。カルノ(☆)は車の操者にサルヨ(☆)を配し、スンクニ(☆)、ドゥルユドノ(☆)、他のコラワ兄弟も出撃する「エビカニの陣形」で対峙する。 カルノとアルジュノは兄弟で、互いに命を取り合う本気になれず木刀を使うのみだったから、なかなか決着は着かず、しかもカルノの馬車は宝石や螺鈿、ガルダ鳥の羽、彫り込んだ芳香の木、レース、絹などに飾られ、戦いは華麗に繰り広げられるショーとなり、見る者は神をも恍惚とさせた。 カルノからは火矢、蛇矢、風矢、石や丘など種類多く放たれ、それとともに、頭や首無し胴、腕、足の化け物、妖怪、ラクササまで飛んで空を満たし、矢を食いちぎり、火をかけ槍を投げ、屍骸や生血、人間を食らい、天の神々までをも追い掛けた。 カルノ(☆)の巻き起こした魑魅魍魎に天界まで脅かされると見て、クレスノはアルジュノに迎撃を命じる。アルジュノは超能力の弓で数万の化け物達を撃つが、化け物どもは混乱を極め、ますます暴れて破壊行為に出た。アルジュノは有毒の火を噴く矢を放つ。 化け物らは逃走しながら灰になり、生き返っても追跡され壊滅したが、矢は紅蓮の焔をあげて拡がり、大地や天界まで焦がし、天界の聖者達は世の壊滅を恐れて、「アルジュノ(☆)とカルノは、シバ神の怒りを買うだろう」と別の手段で戦うよう忠告した。 そこに蛇王アルドワリコ(☆)が登場する。これまでジョトギニ(☆)、ジョトギンバル(☆)、その子コロスレンギ(☆)、その乳母ラヤル・メゴ(☆)と、次々と倒され砕かれた敵討ちで、今度こそ確実に果たすため、アルドワリコはカルノに、アルジュノを倒す加勢を申し出る。が、カルノは一騎討ちのルール(☆)を持ち出して冷たく却下する。 仕方なくアルドワリコは一人で大蛇となって毒気を吐いたが、アルジュノの矢に喉を射られ、のちうちまわって倒れる。 夕闇が迫り、ルールを重視するカルノとアルジュノは延期を約して撤退した。幕舎に戻ったカルノ(☆)は妻スルティカンティ(☆)を思い出し、宰相を呼んで、結婚指輪を手渡し、妻の待つ自国に行かせた。 スルティカンティは宰相の姿を見るや、夫カルノの死を早合点する。宰相は慌ててどもり、これを見たスルティカンティは懐剣で自害してしまう。 宰相は驚き嘆き、カルノに伝えに帰る。カルノはその場で宰相を撃ち殺し、死を覚悟した。 50、カルノ死す 翌日カルノとアルジュノは近寄り抱き合った後、戦いを再開した。火花散る一騎打ちの美しさに、神々は又しても見入り、ナロド(☆)神などは近寄りすぎて、カルノ(☆)の放った矢にかすり傷を負う程であった。 アルジュノを唯一倒せる武器スンジョト・クント(☆)は今はもうなく、カルノにはもう一つ魔矢があった。射ようとした時、カルノの馬車を操っていたサルヨは、アルジュノ(☆)に当たると思い、咄嗟に戦車を揺さぶった。 日傘役のアスウォトモ(☆)はこれを見て驚き、憤慨した。魔矢はアルジュノの急所を逸れ、結い上げた髪をほどいた。 ナロド神が急降下してアルジュノに冠を被せた。カルノの被っている冠と同じで、元々顔のそっくりだったカルノとアルジュノは、全く見分けがつかなくなった。 今度はアルジュノが、グル(☆)神から拝領した矢パソパティ(☆)をつがえると、サルヨの操るカルノ(☆)の戦車はぬかるみに車輪を取られた。 アルジュノは躊躇し、カルノも戦いの公正を訴えたが、アルジュノ(☆)の戦車を操るクレスノは、「パンダワが焼き討ちにされた時も、十三年の放浪をさせられた時も手助けせず、サイコロ賭博の時にはドルパディ(☆)に『ユディティロに捨てられた上は、他の男に嫁げ』と言った」とカルノに公正さが無いと言い返し、アルジュノには「今しかチャンスはない」とけしかけて射らせる。カルノの首は射切られた。 木彫り絵による「アルジュノ×カルノ一騎打ち」名場面
アルジュノは駆け寄ってカルノを抱こうとした。が、カルノ(☆)の短剣が敵討ちを狙っているとクレスノが忠告。アルジュノとカルノの短剣は宙で打ち合い、両方とも天界に帰った。 パンダワもコラワもカルノの死を悲しんだ。 カルノの弟であるパンダワは、カルノの遺体を引き取り、丁重に葬った。 コラワの陣営では、カルノ(☆)の戦車に傘持ち係として同乗したアスウォトモが、サルヨ(☆)が戦車を揺さぶり、ぬかるみに車輪を落とした事を報告し、サルヨの責任を追及するあまり、「娘婿のカルノを殺した、かつては舅バガスパティ(☆)さえ殺害した男だ」と罵り、怒ったサルヨに打ちかかられる。 アスウォトモは逃げ、バヌワティ(☆)王妃の宮殿に身を寄せて、カルトマルモ(☆)と合流した。 アスウォトモとカルトマルモは「ドゥルユドノに安全な場所に移せと命じられた」と、バヌワティをそそのかして連れ出した。しかしこれは罠であった。 アスウォトモ(☆)にとって、父ドゥルノ(☆)を死に至らしめたドルポド(☆)一族こそ仇であったが、サルヨがカルノを死に至らしめた事に憤慨し、サルヨの娘バヌワティを陵辱して、妻にしてやろうと考えていた。 またカルトマルモも、バヌワティがドゥルソソノ(☆)を炊きつけて死に追いやった時、憤慨するドゥルソソノの周囲にいた、という経緯があった。 ドゥルユドノはサルヨ(☆)を宥めて戦闘指揮を頼む。戦闘指揮に立つべき者は誰も彼も死んでいたから、サルヨもついに引き受けた。 51、サルヨ戦場に立つ サルヨが戦闘指揮者になった、と知ったパンダワ陣営では、幼い頃からサルヨに愛されたアルジュノや、サルヨを叔父(母マドリム(☆)の兄)にもつ双子の四男ナクロ(☆)と五男サデウォ(☆)は勿論、常に好戦的だったビモですら、既に復讐を果たした今はサルヨ(☆)を敵に廻す気にはなれず、皆すっかり戦意喪失しきっていた。 未だ「ジタブソロの書」(☆)の計画を遂行するクレスノ(☆)にとっても、サルヨは厄介な敵だった。 かつてサルヨに殺された舅バガスパティが、死の直前サルヨに「敵に襲われた時、敵の二倍の力を得られる呪文」を授けていたからだ。サルヨは無敵だった。 しかしそのサルヨ(☆)も、呪文は「悪意のない公正な相手」を敵とした場合は効力を失う事を知っていた。パンダワが相手の戦いには限界を感じ、唯一安らぎを求めて自宅に戻り、妻スティヨワティ(☆)に手料理「ルジャ(南国の果物入りサラダ)」を頼み、一人自室で瞑想していた。 そこへナクロとサデウォが夜陰に紛れて忍び入り、伯父サルヨに「戦場でまみえるより、今すぐ手討ちにして欲しい」と涙ながらに願い出た。 かつて上辺の愛想の裏で舅の死を願ったサルヨは、双子の甥のこの行動には演出者がいる、と即座に見抜き、自分の言った事をただ復唱するように双子に指図した。 「クレスノの使者として来た。自分達は明朝、そなたサルヨに死を迎え入れられるように」 この双子の復唱によって、サルヨは「悪意を持たぬ相手に死を請われた」設定を導き出す。 サルヨ(☆)は、自分が「正法の白い血を持つ王」に討たれて死ぬのを"時間待ちの天界"で待っているバガスパティを思い、さらに双子に、「自分は誰とも一騎討ちはしない。自分を倒せるのはユディスティロだけ。それも武器ではなく、護符「カリモソド」(☆)を手にして出て来るように」とクレスノへの伝言を託した。 台所にいたスティヨワティは、密かに戻ってこの遣り取りを聞いた。双子が去ると、自分も戦場に連れて行って欲しいと頼んだ。サルヨは言葉を尽くして妻を宥めるが、スティヨワティは夫を自分とともに毛布にくるみ、互いの腰紐を強く結び、夫の腕の上に自分の頭を乗せ、ようやく安心して眠りに入った。 が、サルヨはこっそりとそれら全てを外し、妻に置手紙を書くと、老臣に整えさせた兵の待つ広場に戻った。 52、サルヨ夫婦の最期 ナクロとサデウォはサルヨの伝言をパンダワ陣営に伝え、ユディスティロの名が上がる。これまで何度も自分の和平論を撥ね付けられたユディスティロは、度重なるクレスノの策謀に「あなたの指図は受けない」と不愉快を示した。 そこでクレスノは「全軍に引き上げ命令を出せ」と言い、これに反抗する形でユディスティロ(☆)は戦場に立つ。 サルヨはドゥルユドノを中央に据え、円形で繰り返し攻撃を打ち出す「森の陣形」を立てたが、味方が矢に射られて倒れるのを見かねて、バガスパティに与えられた呪文を唱える。すると小さなラクササが現れ、一人が殺されると二人に、二人が殺されると四人、と倍数に増えて戦場はラクササで満ちた。 対するユディスティロを「正法の白い血をもつ武将」と見抜いたバガスパティ(☆)は、「時間待ちの天界」から降りてユディスティロの体内に入った。するとラクササ達は、本来自分を使役すべき、彼らにとっての父バガスパティが現れたと錯覚し、一斉にユディスティロを慕い、その体内に入った。戦場に満ちていたラクササ大群はこうして姿を消した。 瞑想にふけるユディスティロに近寄ったラクササは、全て無心の思念に焼け消え、バガスパティは乗り移ったユディスティロ(☆)に「カリモソドの書」の矢をつがえさせ、弓を引かせ、サルヨ(☆)を射た。 矢はサルヨに命中したが、元より発生させたラクササ達の消滅によって、サルヨは自身の力費えて死に到った。 サルヨの死を、その書置きと戦場よりの報告によって知った妻スティヨワティは、侍女を連れ短剣を手にして戦場に向かった。 戦場は、戦車、人や馬や象の屍骸が積み上げられて地上に満ち、無数の槍や矢の刃が上向き、旗、法螺貝、戦士の腰紐、武器が散乱する。スティヨワティ(☆)は車を降りて徒歩となる。 死体にぶつかり転び、あるいは踏み付けて滑り、血の川にふくらはぎまで浸かって進み、グチャグチャになった死者の頭を一つ一つ持ち上げて確認し、象の屍骸に腰掛けては又進むうちに気力も果て、このまま自害しようと諦めかけた時、激しい雨が降り稲妻が光を与えて、逞しい歯を見せながら自分を見ているサルヨを見つけた。 思わず抱きついて体を叩いたり、膝に乗せたり薬を与えようとしたが、サルヨ(☆)は動かない。スティヨワティはサルヨの短剣を抜き、胸から背中まで深く自分を刺し貫いた。 (このサルヨが死ぬ辺りまでは、詩人スダが書き、サルヨ夫人スティヨワティの後追いを描く時、ジョヨボヨ王(☆)の許可を得て、その王女をモデルにした所、描写に無礼があったのでスダは殺された。続きを書くためにスダの命令で起用されたのがパヌルである。 王女をモデルにして殺害された……どんな事を書いたんでしょうね(^_^;))。 |
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