<マハーバーラタ・17〜20>

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17、王女ドルパディ

パンチョロ)国王ドルポド)には、長子ドルストジュムノ)、長女ドルパディ)、次女スリカンディ)といった子供達がいた。
長女ドルパディの婿選びの競技にはパンチョロ国重代の武器が出され、これをひいて的に5回命中させよ、という命が下されたが、ほとんどの者は弓を引き絞る事すら出来ない。

ドゥルユドノ)はこれを4度まで命中させ、残りの一度をお気に入りのカルノ)にやらせようとしたが、誇り高い王女ドルパディは猛然と壇上から降りて、「どこの馬の骨とも知れぬ者の妻になる意志はない」とカルノを罵ったため、ドゥルユドノの嫁取りは失敗する。

そこに現れたアルジュノ)は、強弓を引いて見事に5度標的を射止め、ドルパディからジャスミンの花飾りを与えられ、ドルパディ)を伴ってその場を去った。
パンチョロ国の宰相ゴンドモノ)は、この時もパンダワに勝負を挑み、相手をしたビモ)に打ち負かされて絶命する。その間際、ビモゴンドモノから独特の教訓を伝授された。

去って行くパンダワ一行を、ドルポド長子ドルストジュムノと、今やコラワに組織されたアスティノ) 軍が追跡した結果、これがパンダワで、生きていた事が世間に知れる。
ドルポドはパンダワと親戚となれた事を喜び、一方のコラワは驚愕と恐怖を覚えた。

インド神話では、留守をしていたクンティ)が、帰って来たアルジュノに「獲物(布施)を得た」と聞いて、人間の女性とは知らず、「兄弟で仲良く分けなさい」と言ったため、ドルパディはパンダワ5人兄弟の共通の妻となり、ユディスティロ)とドルパディがともに居る時、二人の部屋に闖入したアルジュノは、罰として12年の放浪生活を送り、クレスノ)とともに住むという話になる。
が、インドネシア……特にジャワでは兄弟共通の妻という慣習が無かったためか、ドルパディは長兄ユディスティロの妻として語られる。

やがてマルトの森の開拓は終わり、アマルト国として独立()。インドロプラストインドロ神の都)とも言われた。
インドでは、ドルパディを得たパンダワの健在を知ったダストロストロ)は、喜びのあまり、息子達の反対を押し切って、アスティノ国の一郭にある砂漠の地を与え、それがインドロプラスト)という事になっている。

何とか名門出身の妃を得たいドゥルユドノは、モンドロコ)国王サルヨ)とその美妃スティヨワティ)の間に生まれた、いずれも美人の三王女の内、まず長女エロワティ)に求婚する。

ところが、エロワティを妻にしようとしていた水中国のラクササ王子カルトウィヨゴ)が、エロワティを誘拐してしまう。
ドゥルユドノは、コラワ軍を出動して大砲を打ったりしたが、あまり効果は上がらなかった。



18、ドゥルユドノの結婚


カルトウィヨゴは甘ったれて育った傲慢な王子だったが、エロワティ)は懐剣で自害すると脅したため、心底弱り、嘆きのあまり父王に訴えた。哀れに思った乳母が、よく眠り少食する事で実行できる呪文を授けた。

カルトウィヨゴが呪文を唱えると、エロワティは少し譲歩し「二人の妹達を連れて来てくれたら、妻になってもいい」と答えた。
カルトウィヨゴモンドロコ国に舞い戻り、二人の妹を連れ出そうと呪文を唱え、国中の人間を眠り込ませる。しかし、一人だけ眠らなかったマンドゥロ)国王子ボロデウォ)に発見され、追跡をうける。

ボロデウォは水中の国に辿り着き、ラクササ軍と戦ってカルトウィヨゴ)を倒したが、味方であるべきコラワ軍は、ボロデウォエロワティを渡すまいと、姦計を用いて重傷を負わせた。

ボロデウォは危ない所をビモによって救われ、ついにエロワティを妻とした。
ドゥルユドノ)はエロワティを諦め、サルヨの次女スルティカンティ)に求婚した。

ところが、スルティカンティは館に潜んで来るカルノと逢瀬を重ねる仲となっていた。又このスルティカンティも、コロカルノ)に誘拐されてしまう。
この時、アルジュノナロド)神によってカルノが実の兄である事を知らされ、カルノに同情してコロカルノを倒し、カルノ)は晴れてスルティカンティを妻とした。

このため、ドゥルユドノサルヨ)の三女バヌワティ)に求婚したが、バヌワティは幼い頃からアルジュノと相思相愛の仲であった。しかし度重なるドゥルユドノの求婚にサルヨ王もついに折れ、バヌワティは父の命令に従わざるを得なかった。

このバヌワティは、この物語きっての美女で、着飾らずとも美しいと言われる一方、非常に気が強く、不機嫌な時ほど美しさが増すと描写される。
彼女はドゥルユドノとの結婚の条件に「アルジュノ)と逢引する権利」を主張し、ドゥルユドノの承認を取り付けただけでなく、アルジュノには「いつかコラワとパンダワの間で戦争が起こる日が来たら、パンダワのためにスパイとなる。戦争が終わったら、必ずあなたの妻になる」と誓った。

バヌワティ)とドゥルユドノ)の間には、レスモノモンドロクモロ)という息子が生まれる。



19、クレスノの妻子

クレスノには生涯に4人の妻がいた。
第一夫人がラーマーヤナにも登場する猿僧の娘で、息子ソムボ)を生む。

ソムボにはドルモ)神が化身して入り込んだので、ドルモ神の妻ドルミ)はソムボの妻に化身しようとして間違え、第四夫人プルティウィ)の生んだボモノロカスロ)の妻に化身してしまう。
ドルミは間違った事に気付かず、ソムボの妻になれたつもりでソムボに近付くが、当然ボモノロカスロは、自分の妻が別の男に近寄っているのを見て怒り、異母兄弟のソムボを惨殺してしまう。

第二夫人がルクミニラクスミ、日本では吉祥天女とされている)で、クレスノの父バスデウォ)の妹であるから、クレスノには叔母にあたる。
ルクミニの兄ルクモ)はクムビノ)国王であり、妹に他の男との婚姻を用意した。しかしルクミニクレスノ)に手紙で「自分を浚って欲しい」と頼み、クレスノルクミニを浚って逃亡。

ルクモは追跡の軍を起こして追い掛けたが、クレスノの兄ボロデウォ)に追い散らされ、クレスノルクミニ)は婚姻に至った。
ルクミニは王女シティスンダリ)を生む。

ルクミニは農耕の女神スリ)の化身と言われ、スリはある国の王女であったが、弟王子を理想として父王の薦める結婚を断ったため、父の呪詛をうけて蛇に変身させられたり、逃亡を重ねる先々で、稲作や農耕についての助言を与えたため、稲の女神と呼ばれ、また女性たちに次々と入魂しては、ラクササなど気に染まぬ男からの求婚を拒絶しつづけた。

第三夫人はバスデウォ)の弟レサンプロ)国王ウグロセノ)の娘で、クレスノとは従兄妹になるスティヨボモ)王女である。スティヨコ)という男子を産んだ。
この王女には、クレスノ)より前にドゥルノ)が求婚していた。しかしクレスノはこの王女に、「兄の妻エロワティ)が重病なので見舞ってほしい」と嘘をついて近付き、求婚して横取りし、同じくスティヨボモに恋をしていたある国王を倒してその国を奪い、自分がその国の王となって即位。以後、国名をドロワティ)国という。

このとき、ウグロセノ王の息子でスティヨボモの弟スティアキ)は、クレスノウィスヌ)神の化身である事を知り、クレスノに入れ込んだあげく、自分の王位継承も放り投げてドロワティ国に馳せ参じ、のちの大戦においても終始クレスノの側に居るようになる。

一方クレスノ)自身が心寄せたのはパンダワで、中でも大のアルジュノ贔屓で、妹のスムボドロ)を嫁がせようとしていた。

しかしソムボを殺したボモノロカスロの暴走が目に余った。ある時ボモノロカスロアルジュノを殺して父クレスノの激怒を買う。
アルジュノクレスノの持つウィジョヨクスモの花()によって蘇生させられるが、クレスノは息子を打つ決心をする。

ところが、どう退治してもボモノロカスロは大地に倒れると蘇生する。
困ったクレスノは、第四夫人プルティウィに秘策を聞き出す。プルティウィは蛇神オントボゴ)の娘で蛇神の血を引くため、息子のボモノロカスロ)も超能力の持主であったのだ。
クレスノ)はボモノロカスロが乗用鳥に乗っている間にチョクロ)を放って射抜き、大地に到着する前にその命を奪う事に成功する。



20、アルジュノの結婚

クレスノの妹スムボドロアルジュノに嫁ぐ日を迎えた。
スムボドロアルジュノ)よりやや年上だが、非常に美人で、実は天界の妖精の一人とされ、スムボドロが地上にいるために、天界の十万人の妖精たちは常に一人足りぬとも言われる。

話はとんとん拍子で進んだが、この影で一人泣いたのが、サルヨの長男ブリスロウォ)であった。
美形が多い弟妹に比べ、ブリスロウォだけは鼻が異形で歯茎の見える醜悪な顔つきだったが、ある時、スムボドロ)を垣間見て、その美貌に惚れ抜いていた。

サルヨに頼み、スムボドロの長兄ボロデウォに頼み、姉スルティカンティ)の夫となったカルノにまで、スムボドロとの仲人を頼むが、誰も相手にしてくれないまま、スムボドロアルジュノは婚姻の日を迎えてしまう。

アルジュノも又モテる男で、契った女は無数、その子供達も数え切れないと言われ、また生まれた子らは、よほどアルジュノより抜きん出た才能でも無ければ、アルジュノから子として認知して貰えない有様だ。
ドルパディ)の妹スリカンディなどは、アルジュノスムボドロの結婚式で、よりによって新郎のアルジュノ)にすっかり一目惚れしてしまう。

スリカンディも美貌の持主で、ジャワ島から遠い異国の王ジュンクンマルデオ)がある夜、夢にスリカンディを見て恋をし、やがて求婚する。ジュンクンマルデオは美貌の王で、超能力にも秀でたが、スリカンディ)はこれを拒否して、自国パンチョロ)国を飛び出るや、アルジュノの元に転がり込み、ジュンクンマルデオを倒すためと称して、アルジュノに弓を教わるのだった。

パンダワ兄弟の姉となったドルパディは、既に妻帯したアルジュノに近寄る妹をたしなめたが、ジュンクンマルデオは野心家で、パンチョロ国を乗っ取ろうと企み、大軍を率いて来たため、スリカンディを愛し始めたアルジュノは力を貸して反撃し、ジュンクンマルデオを倒すと、スリカンディアルジュノの第二夫人の座におさまった。

(インドにおけるスリカンディは、女ながらも男として育てられ、ある国の王女との縁談が来てから女である事がバレ、怒った相手国に攻められ、自殺をはかって入った森林で、出会った男と性転換して、特に弓に秀でた戦士となる。いずれにせよ、破談をキッカケとして、元は女ながら戦士となる点が共通している)

またクレスノの育て親の娘(実はクレスノの妹という説も)のララサティ)もアルジュノ)に弓を教わり、スリカンディを負かす腕前を身につけ、アルジュノの妻妾となった。

さらに、ボロデウォの妻となったエロワティが「自分がもう少し若かったら、貴方の妻になりたかった」と言い寄ったり、何かと女が放っておかないアルジュノだったが、それでもスムボドロ)の仲にヒビが入る事もなく、やがてスムボドロは長男アビマニュ)を生む。

     
  <コメント>

前回(13〜16話)、マツウォパティ王に与えられた「マルトの森」をパンダワ兄弟がほぼ開拓し終わり、アマルト国という国を建国しました。これでコラワに焼討ちで追い出されたパンダワ兄弟にも、住む場所が出来たのです(^^)。

インドではこの国をアスティノ国の一郭(「インドロプラスト」、元は砂漠)とし、インドネシア・ワヤンではウィロト国の一郭(「アマルト国」、元は「マルトの森」)とします。
この「森」と「砂漠」の違いは、前回も書いた"ラクササが出現する場面”の有る無しに繋がるようです。ラクササの住む場所は「森」が多いわけですね(^^ゞ。

ちなみにインドネシアは、有名なオランウータンがいる国です(^^)。このお猿サンはインドネシア語(母体はマレー語)で「森の人」という意味で、「オラン」が「人」、「ウータン」は「森」を意味します。

何しろこの両説をあわせると、アスティノ国とウィロト国は隣国で、アマルト国はその国境にあるちょっと荒れた地域に出来た国、という事になりそうです(^^ゞ。

また今回は、後にパンダワ×コラワの構図の一端となる、多くの婚姻関係が出てきました。

パンダワ(長兄ユディスティロ)が迎えた妻ドルパディ、そしてアルジュノ第二夫人になった次女スリカンディによって、パンダワはこの下<因縁(および誓い)メモ>にもある、ドルポド×ドゥルノという確執ある二人の内、ドルポドを身内にします。

と言っても、これによって「ドゥルノがパンダワの敵になった」と明言される記述を読んだ事はないのですが、あれほどアルジュノ贔屓だったドゥルノが、この後「パンダワ擁護側」として登場する場面も、やはりあまり見なくなります。

これには、もしかしたらドゥルノがクレスノに、スティヨボモ(クレスノ第三夫人)を横取りされた事が関係して来るのかもしれませんね(^_^;)。
そのクレスノはアルジュノに妹スムボドロを嫁がせ、パンダワと急接近してる向きがありますから、いずれもこの時期の婚姻関係が、その後の勢力分けに無関係ではないと思います。

そのクレスノや、その兄のボロデウォは、この頃から本格的に登場します。
この「マハーバーラタ」では、既にクレスノがパンダワ周辺に登場してますが、クレスノが一体どこからパンダワ兄弟の人生に関わって来るのか、正確な所を知りません(^^ゞ。

インドでは、ドルパディとユディスティロの邪魔をしたアルジュノが追放されて、クレスノと一緒に暮らすので、どうもこの辺り(17話↑)からは確実なんでしょう。

それと、どうも私には、クレスノはドルパディの守護神として登場したように思えます。
このマハーバーラタにおいてはさして重要でもないので、大きく取り上げませんでしたが、これには農耕の女神スリが関連するのかもしれません。

スリは理想の男性と結婚するため、気に入らない男を拒絶し、次々と女性の魂に入って同じ事を繰り返させ、クレスノ第二夫人となったルクミニの中にも入ってます。

スリの結婚したい相手とは、元は弟だったのですが、結局ウィスヌの妃神として称えられます。 ウィスヌはラーマーヤナで人間に化身し、スリが化身した女性と結ばれます。クレスノはウィスヌの化身ですから、こうした女性を助ける宿世を追っているのかもしれません。

さて、もう一つ重要な婚姻関係はサルヨの三人娘達です。
ドゥルユドノの失恋話を強調するため(笑)、まずはドルパディが登場した後、サルヨの三姉妹が次いで次々と登場します。
女が誰かに誘拐され、そこから救出した男が結婚相手、という話を何度も繰り返して、ドォルユドノの失恋ぶりを強調する所は、神話と言うより講談ですかね(笑)。

次女スルティカンティはカルノの妻となりますが、どうもこの結婚、後の様相から推察するに、サルヨはあまり快く思わなかった感じがします(^_^;)。理由はやはり、カルノの身分なのだと思いますが、スルティカンティはカルノと相思相愛です。

こうして二人の姉が「早く抜けたモン勝ち」とばかり先を争って結婚したため(^_^;)、哀れ三女バヌワティは、アルジュノとの初恋を犠牲にしてドゥルユドノと結婚。

ところが、この時に彼女の誓った言葉
「いつか(中略)パンダワのためにスパイとなる。戦争が終わったら、必ずあなたの妻になる」
↑これだけが、なぜか下<因縁(および誓い)メモ>に入らないのです(^_^;)。もしかしたら、スパイを務めるような話(ラコンと言います)もあるのかもしれませんが……?

バヌワティの結婚相手ドゥルユドノも、サルヨにとっては必ずしも嬉しい相手ではないんでしょうが、そもそもクンティ・グンダリ・自分の妹マドリムの三人の女の結婚にまつわる場(04話)に、自分も深く関わっていた事から、サルヨはコラワに何らか責任感を感じていたのかもしれません。

今回は珍しく↓に記述する話がありません(^^ゞ。



<因縁(および誓い)メモ>

ビスモに対するオムボの因縁−02話
パンドゥ一族(つまりパンダワ)へのプリンゴダニ国ラクササ一族の因縁−03話
サルヨに対するパガスパティの因縁−05話
パンダワ兄弟に対するグンダリの宣戦布告−06話
スンクニの急所−06話
ボゴデント、クルティペヨ、ガルドパティ、ウレソヨら、飛ばされたコラワ兄弟の集結−09話
ドルポドとドゥルノの確執−10話
ドゥルノに対するパルグナティの因縁−10話
アルジュノパティに対するクレスノの命令−10話
イジュロポ親子の「神に捧げる人身御供」になる約束−13話
サゴドロの「神に捧げる人身御供」になる約束−13話
ガトゥコチョの臍に吸い込まれた鞘とカルノの剣の合致−16話



尚、来月(12月)は多忙月間のため(^_^;)、1回お休み致します。
年明けまた再開しますね〜(^^)/。
 
     



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