その七「五行、相生相剋の図」
前回、「疲れた頭で何を考えても無駄」という言葉で締めくくりましたが、これこそが東洋医学の西洋医学とはまるで違う点と言っても、決して過言ではありません。
西洋医学では……いや、西洋社会では、心と体を最初から分けてしまいます。体を征服できない心をレベルが低い、理性が無いなどと言ってバカにしている感じがします。
しかし、人間の脳や脳に影響を与えると言われている神経とかホルモンって、体の中に無いのでしょうか? また、そもそも「体」って、今いろんな事を考えている私達とは別の物なのでしょうか?
全て体の中にあるのに、なぜわざわざ別に分けるのでしょう。おかしいと思いませんか?
神様は人間の理性……つまり、脳みそにだけ、より良い人間への提示とやらを行っているんですか? そうだとしたら、神様ってずいぶん勝手ですよね(爆)。だって、「殺すな盗むな」なんて言ったって、カッと来たら殺したくなっちゃうし、欲しくなったら盗むってので何が悪いんですか? それって人間のせいですか?
東洋医学では、神様を体の中に置きます。具体的に言うと「心」という所に置くのですが、これは「精神」という意味ではありません。「心臓」の「心」です。そして西洋医学で言う所の、ドッキンドッキン脈うってるポンプの役割をしてる「心臓」って名前の物体でもありません。
ハッキリ言うと
経絡です。
心経といい、これが人の神経に大きな影響を及ぼしうる経絡なのです。
じゃ、やっぱり「精神」じゃないか、という発想。それも間違ってます。
精神を司るのは
肝経という所にあり、これまたレバーの肝臓とは違い、経絡のことを指します。
ちなみに、今私が言った、心経における「神経」や、肝経における「精神」という言い方は、実はちょっと外れる部分もあるのですが、西洋医学的に翻訳しないと現代人には把握できませんから、敢えて訳してあります。
んじゃ、わかった、人間の思考や精神は、何だかいろいろな所に分散されてるってワケなのね……というあなた、はい、ドンピシャリ! 大正解(^^)。
人間の経絡は全部で12本ありますから、この12本の全てを健康にしたとき、殺したり盗んだりするなんて、バカバカしくて思いつきもしなくなるワケです。
んじゃ、中国では人殺しや盗みは無かったの? 昔の日本はどうだった? というあなた。前回言ったでしょ? 東洋医学は手作り医療なんです。万人にたっぷりとした量で行き渡るには、それなりに文明が追いつかなければ、不可能ではありませんか?
そうしたワケで、東洋医学は西洋医学に譲ってきてしまった部分は、認めざるを得ません。一度、いっぺんにどうにかする文明の到来があって、初めてその理想が達成されるものであった以上、私は前にも何度か述べたとおり、西洋医学も現代医学も、決して否定するものではないのです。
さて、経絡の話に入る前に重要なのは、経絡を体系化した「五行」の考え方です。
東洋医学に限らず、およそ仙人に関する勉強をしていて、何をやっても、基本として引っ掛かってくること……それが「五行」の知識です。
取り合えず下に、まず12本の経絡を書いちゃいましょう。
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木
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火
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土
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金
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水
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(火)
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陽
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肝経
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心経
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脾経
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肺経
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腎経
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心包経
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陰
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胆経
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小腸経
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胃経
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大腸経
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膀胱経
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三焦経
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上に書かれた「木」「火」「土」「金」「水」が、すなわち「五行」です。(細かい事を言うと、「五行の徳」と言います)
下のほうに配分された、「肝経」「心経」「脾経」「肺経」「腎経」「心包経」「胆経」「小腸経」「胃経」「大腸経」「膀胱経」「三焦経」の12個が、すなわち
経絡です。
経絡は、人体を、頭から足まで、まるで線路のように走っています。線路の「駅」に当たる点を「経穴」と言い、これは俗に言う「ツボ」という奴です。
ツボを刺激すると、線路である経絡全体に指令が行く仕組みを持っています。と言っても、山の手線の五反田駅で駅員が掃除をしても、同じ山の手線の「新宿」が綺麗になるワケではないように、ツボにはそれぞれの特色があり、ツボのどれかを刺激すれば経絡全体がただちに良くなるほど、単純ではありません。
しかし、五反田で事故が起きれば、新宿まで電車が行かないのと同じで、どこかのツボに滞りが生じると、経絡全体に影響が出ます。
そして、山の手線に事故が起きると、それと各駅で連結している他の沿線にも影響が出るように、12本の経絡は、それぞれ連結しあって、健康に影響を与えます。
この影響を知る上で重要なのが上に書いてある「五行」です。五行とはさながら、地下鉄マップのような物です。どこか一つだけの路線を知っていても、その地域全体での用が足せないのに似て、五行を押さえてないと、東洋医学は理解できません。
私は、自分が東洋医学オタクなので、時々同じ趣味の人に出会います。人によって、好きな分野が違い、向く方向が違います。
が、漢方薬の種類などに大変詳しい人が、意外と五行に疎いことには驚かされます。
確かに、たまに、中医学関係の雑誌などを読むと、「五行ばかりに血道をあげて、医療の実践のない者がいて、嘆かわしい」という声が、東洋医療の現場から聞こえてくるのですが、この人たちは、五行はあまりにも基本なので、充分に知った上で、「あまりにも理屈に捕われすぎては、本末転倒」と言っているワケであって、五行をまるで知らなくても良い、とは誰も言ってはいないのです。
ところが、このところ、漢方や気功(太極拳)、風水などがブームになったせいか、ちゃんと学校に通って専門の知識を身につけていない人でも、この世界に介入し、○○湯はナントカという生薬が配合され、どんな体質に効くとか、○○の方位は恋愛や結婚に効くらしいから、そこに花を置くのがイイとか、あるいは武道の○○拳は、ナントカ流の流れをついでいる……なんて枝葉にばかり精通して、何でいいのかの理論をまるで押さえないで話していることが実に多いのです。
五行は簡単な理論(哲学)です。しかも、これだけ解っていれば、他の何にでも通用する所が便利です。中華料理や麻雀ですら、私に言わせりゃ五行の一種です。こじつければ、中国のものは何でも五行になりえます。夫婦の不和も、子供の登校拒否も、郵便ポストが赤いのも、何でもかんでも五行のせいです。どうです、わかりやすいでしょう(^_^;)?
で、簡単に言うと、「木」と「火」が大まかには「陽」、「金」と「水」が「陰」。これで、陰陽五行。聞いた事がありませんか? 日本で言う陰陽道も、全てはこれを発祥としているのです。
以下にわかりやすく図にしましたので、ちょっとご覧下さい。ちなみに下に出て来る言葉、「相生」とは良い循環、「相剋」とは悪い循環を指します。↓